東北大学多元研 高桑研究室 本文へジャンプ

博士・修士・卒業論文の要旨



Motaharul Kabir Mazumder

『Ultraviolet-Light Assisted Chemical Vapor Deposition of Si』(博士論文、平成3年度)
 紫外線励起シリコン気相成長プロセスにおける結晶欠陥発生機構を解明するために、高周波誘導加熱による大気圧CVD装置を用いて、 ジクロロシラン(SiH2Cl2)によるSi(111)表面への気相成長について、成長速度と欠陥発生への紫外線照射効果を調べた。結晶欠陥をエッチングなしで、 Si(111)-0ooff表面に見られるピラミッド状丘を観察することで調べることが可能であることを明らかにし、ピラミッド状丘の頂点形態がSharpなものは転位、 Flatなものは積層欠陥、Brightなものは酸化物と関連しているので、それぞれを区別して欠陥発生を評価できる(図1)。 とりわけ、積層欠陥と転位はSiH2Cl2解離吸着で生じる吸着塩素(monochloride Si-Cl)が原因であることを明らかにした(図2, 3)。 紫外線照射したH2キャリアガスを用いることにより、酸化物による欠陥が著しく減少するだけだけでなく、転位と積層欠陥も抑制できることを見いだした(図4)。 その原因として、紫外線照射水素によりSi表面の酸化物が除去されるだけでなく、吸着塩素がHClとして脱離するためであるとことが示唆された。




図1:SiH2Cl2を用いてCVD成長したSi(111)-0ooff表面の微分顕微鏡写真の成長温度依存(左)。ピラミッド状丘の頂点形態に三種類(Flat, Sharp, Bright)が存在し、 Flatのものを観察することにより、積層欠陥発生をエッチングなしで評価することができる。積層欠陥と成長速度のアレニウスプロット(右)。成長速度の温度依存から、 約950℃でSi気相成長の律速過程が、SiH2Cl2拡散の高温領域と、表面反応による低温領域(灰色の部分)に区分されることが分かる。




図2:転位(Sharpな頂点形態をもつピラミッド状丘)と積層欠陥(Flatな頂点形態をもつピラミッド状丘)の発生密度のSiH2Cl2体積濃度への依存。 これから、転位と積層欠陥の核発生過程は、それぞれSiH2Cl2体積濃度の一次と二次の関数であることが分かる。




図3:Si(111)表面に吸着した塩素による立体障害が積層欠陥発生を引き起こす表面反応モデル。表面拡散する塩素原子の会合によりSiCl2が形成され脱離すれば、積層欠陥発生はなく、 脱離しないままでSi原子の体積が起きるとき積層欠陥がもたらされる。つまり、積層欠陥発生は表面塩素被覆率の2次反応であり、SiCl2脱離が律速反応である。




図4:SiH2Cl2によるSi-CVD成長における、H2キャリアガスへの紫外線照射効果。Si表面に残留するSiO2、もしくは原料ガス中の H2O不純物により析出するSiO2が原因で発生するBrightな頂点形態をもつピラミッド状丘への効果が顕著であり、密度が約90%も減少している。 他の種類のピタミッド状丘についても減少が観察された。



2011/11/2 複合表面解析装置2号機の前にて




二瓶 瑞久

『角度分解XPSによるSiO2/Si界面の構造に関する研究』(修士論文、平成3年度:現在、富士通株式会社)

ドライ酸化及びウェット酸化で形成したSiO2/Si界面構造を明らかにするために、Si(001)表面とSi(111)表面に形成したSiO2膜を 角度分解X線光電子分光で観察し、構造欠陥と酸化状態の深さ分布を調べた。ウェット酸化で形成したSiO2膜(1000Å)/Si(111)の表面近傍には、Si-HやSi-OH欠陥だけでなく、 Siクラスターも存在することが示された(図1, 2)。そして、真空中で加熱するとSiO2(1000Å)表面近傍の構造欠陥が増加すること、 O2雰囲気中では逆に減少することを見いだした(図3)。この変化から、SiO2/Si界面で分解反応(Si+SiO2→2SiO)により発生したSiOがSiO2膜中を濃度勾配により表面に拡散することにより、 表面近傍の構造欠陥が増加し、O2雰囲気中ではSiOとO2の会合反応により酸化されるために、表面近傍の構造欠陥が消失する反応モデルが提案された(図4)。




図1:ウェット酸化で形成したSiO2膜(1000Å)/Si(111)のSi 2p光電子スペクトル。検出角度θpは0o(バルク敏感)と75o(表面敏感)である。




図2:角度依存Si-2pとO-1s光電子スペクトルの解析から求めた、ウェット酸化で形成したSiO2膜(1000Å)/Si(111)の表面化学結合状態モデル。




図3:ウェット酸化で形成したSiO2膜(1000Å)/Si(111)を真空中とO2雰囲気(0.5 Torr)で加熱処理したときの Si-2pとO-1s光電子スペクトルの変化から求められたSiO2膜での反応モデル。




図4:Photon Factory(高エネルギー加速器研究機構、つくば)のBL11Cでの共同利用実験での写真。(1990/5/4)




2009/2/20 ナノテク展2009の富士通ブースにて。




山口 哲二

『UPSによるSi薄膜成長の素過程に関する研究』(修士論文、平成3年度)

 ガスソース分子線エピタキシー(Gas-source Molecular Beam Epitaxy: GSMBE)によるSi薄膜成長の表面反応機構を解明するために、 ジシラン(Si2H6)を用いて結晶成長中のSi(001)表面を放射光(BL-11C, Photon Factory)とHe-I共鳴線(21.22 eV)による紫外光電子分光でリアルタイムモニタリングし、 水素被覆率と水素吸着状態を調べた。真空ゲージの表示とSi表面での局所的なSi2H6圧力は異なるので、ダイマー未結合手に起因する表面電子準位の光電子強度を用いて Si表面でのSi2H6圧力を求める方法を確立した(図1, 2)。とりわけ、ガスドーザによるSi2H6圧力供給では基板表面近傍のみでSi2H6圧力を増加できるので、 この方法は有効な手法であることが分かった。表面準位光電子ピーク強度のSi2H6圧力と基板温度依存を詳しく調べ、 GSMBE成長の表面反応律速となっている水素被覆率を求めただけでなく、水素脱離過程を明らかにした。




図1:ジシラン(Si2H6)雰囲気中のSi(001)表面のフェルミ準位近傍の光電子スペクトル(破線)と清浄表面のもの(実線)の模式図。 それぞれの光電子スペクトルにおけるダイマー未結合手による表面準位の光電子強度をIG, I0とする。




図2:ダイマー未結合手による表面準位の光電子強度IGのSi2H6圧力依存。Si基板温度は450℃、550℃、600℃である。この結果を用いて、 光電子スペクトルの解析からSi表面でのSi2H6圧力を求めることができる。




図3:ジシラン(Si2H6)用いたガスソースMBE中のSi(001)表面の光電子スペクトルの温度依存(点線)。実線は比較のための清浄Si(001)2×1表面のものである。 Si2H6圧力は5×10-7 Torrであり、光電子強度振動法で求めたSi成長速度は500℃で0.68Å/minであった。




図4:Photon Factory(高エネルギー加速器研究機構、つくば)のBL-11Cでの共同利用実験での写真。(1990/6/4)




藤田 真也


『GaAsへのオーミック接触形成に関する研究』(修士論文、平成3年度)
 GaAsへのオーミック接触形成機構を解明するために、(NH4)2Sx処理したp型とn型GaAs(001)表面への金属蒸着より形成された界面状態を、 放射光(BL-11C, Photon Factory)とHe-I共鳴線(21.22eV)を用いた紫外光電子分光とMg Kα線(1253.6 eV)を用いたX線光電子分光で観察し、ショットキー障壁高さφSBの変化を調べた。 同条件で熱処理や金属蒸着を行うため、Taリボン・ヒータに(NH4)2Sx処理したp型とn型GaAs(001)表面を2個一緒にAgペースとで固定した。 (NH4)2Sx処理したGaAs(001)表面のp型で1.16 eV、n型で0.25eVと求められ、放射光照射により低温で硫黄を除去できることを明らかにした。また、φSBのGe、Au、Ni蒸着量依存から、 界面固相反応に硫黄層が著しい影響を与えることを観察した。




図1:n型GaAs(001)表面のワイドスキャンXPSスペクトル。(A) (NH4)2Sx処理表面、(B) 清浄c(8×2)表面、(C) 硫酸系溶液でエッチングした表面。




図2:UPSスペクトルより求めた、(NH4)2Sx処理したp型とn型GaAs(001)表面のエネルギー・バンドダイアグラム。 φSBはショットキー障壁高さ、φは仕事関数、χは電子親和力を表す。




図3:(NH4)2Sx処理したp型GaAs(001)表面の加熱処理にともなう価電子帯光電子スペクトルの変化。



図4:Photon Factory(高エネルギー加速器研究機構、つくば)のBL11Cでの共同利用実験での写真。 後列左より、西森年彦さん(三菱重工)、山口哲二さん、藤田真也さん。前列左より、高桑先生、二瓶瑞久さん。 (1990/6/4)



堀 仁一

『シンクロトロン放射光励起シリコン薄膜結晶成長』(卒業論文、平成2年度:現在、日立製作所株式会社)

 シンクロトロン放射光励起シリコン薄膜結晶成長の表面反応機構を調べるために、ジシラン(Si2H6)を用いて 結晶成長中のSi(001)表面とSi(111)表面をHe-I(21.22 eV)とNe-I(16.88 eV)共鳴線を用いた紫外光電子分光で「その場」観察し、水素吸着状態を調べた。 水素吸着状態の温度依存がSi(001)表面とSi(111)表面で異なることを観察した。また、DCMA(Double Cylindrical Mirror Analyser)型電子エネルギー分析器を備えた 複合表面解析装置の開発も行い、とりわけ、DCMAの測定制御系の各種機器の製作、試料マニュピレータの改良、試料加熱電源などの製作を行った。




図1:Si(001)2×1表面とSi(111)7×7表面のRHEED回折パターンの温度依存。




図2:水素吸着(5000 L)/Si(111)表面の加熱過程のUPSスペクトル。励起光はNe-I共鳴線(16.88 eV)である。




佐藤 靖史

『低温シリコン成長における欠陥発生』(卒業論文、平成2年度)

 低温シリコン成長における欠陥発生機構を解明するために、高周波誘導加熱による大気圧CVD装置を用いて、 ジクロロシラン(SiH2Cl2)によるSi(111)-0ooff表面への気相成長において、ピラミッド状丘を用いて欠陥発生を調べた。 ピラミッド状丘の頂点形態がSharpなものは転位、Flatなものは積層欠陥、Brightなものは酸化物と関連して発生し、とりわけ、 転位は基板表面の欠陥・損傷もしくはSiCなどの汚染物が原因と考えられるので、1200℃の高温でSi成長させることにより、このような欠陥/汚染物のない表面について、 1050℃で低温成長させたとき、積層欠陥は殆ど変化しないものの、転位密度が50%以上も抑制できることを見いだした。 この結果は、積層欠陥は主に表面吸着塩素により、転位はそれに加え基板の欠陥/汚染物が原因で発生するモデルを支持している。




図1:高周波誘導加熱を用いた大気圧CVD装置のブロック図。




図2:高温でSiバッファー層を形成してから低温Si成長するための実験手順。





野河 正史

『放射光によるシリコン表面の光刺激脱離に関する研究』(修士論文、平成元年度:現在、NTT株式会社)

 放射光によるシリコン表面の光刺激脱離機構を解明するために、放射光を用いた光刺激(Photon-stimulated Decorption: PSD)と 紫外光電子分光を用いて、Si(001)とSi(111)表面での水素吸着状態と水素のPSD脱離過程を「その場」観察で調べた。 フッ酸処理Si(111)表面が主にSi-H(monohydride)で覆われていることを明らかにし(図1)、 この表面からのH+イオンのPSD収率と全二次電子収率の光照射条件(光エネルギー、入射角)を系統的に調べ、 光励起水素脱離効率が(~23 eV, ~45o)で極大になることを見いだした(図2, 3)。 この最適化された光照射条件で、フッ酸処理Si(111)表面からの水素除去のための放射光そのものをUPSの励起光源とすることにより、 水素脱離反応過程における水素吸着状態を「その場」観察し、その反応モデルを提案した。




図1:フッ酸処理Si(111)表面の価電子帯光電子スペクトル(点線)。光エネルギーは23 eVである(BL11C, Photon Factory, KEK)。 比較のために文献に報告されたSi-H(monohydride)吸着Si(111)表面、Si-H3(trihydride)吸着Si(111)表面、Si-H + SiH2(monohydride + dihydride)吸着Si(111)表面の 価電子帯光電子スペクトルを実線で示す。




図2:フッ酸処理Si(111)表面からの光刺激脱離(Photo-stimulated Desorption: PSD)によるH+イオン収率の光エネルギー依存。 イオン検出角度θpは0o(表面垂直方向)、45o、65oである。




図3:フッ酸処理Si(111)表面からの全電子放出収率(Total Electron Yield : TEY = Sample Current)の光エネルギー依存。イオン検出角度θpは0o(表面垂直方向)、45o、65oである。




図4:Photon FactoryのビームラインBL11Cに設置されている瀬谷-浪岡型分光器の脇での写真:左から、高桑先生、片倉等さん、松吉聡さん、野河正史さん、庭野道夫先生。(1988/7/23)




二瓶 瑞久

『角度分解光電子分光法によるSi酸化膜/Si界面の構造』(卒業論文、平成元年度:現在、富士通株式会社)

 CMOSデバイスのゲート絶縁膜で必要とされるSi酸化膜とSi基板との界面構造を解明するために、 角度分解X線光電子分光(Angle-resoved X-ray Photoelectron Spectroscopy: ARXPS)を用いて自然酸化膜とドライ酸化膜の酸化状態の深さ分布を調べた。 Si-2p(SiO:Si基板から)、Si-2p(Si4+:SiO2膜から)、O 1s光電子強度の検出角度依存を測定し、それらの間の強度比の検出角度依存からSi(111)表面の自然酸化膜の厚さが0.5-1 nmあり、 その中に界面に存在する~0.3 nmの構造遷移層(SiOx: x < 2)が含まれていることを明らかにした。 1000℃でドライ酸化(2000 L)したSiO2/Si(111)界面についても、酸化膜厚が1.3 nmまで増加するものの、同程度の厚さの構造遷移層が含まれていることが分かった。




図1:角度分解X線光電子分光の測定配置図とSi基板の支持方法。




図2:800℃でのドライ酸化により形成したSiO2/Si(111)表面のX線光電子強度の検出角度依存。 (a) Si-2p (Si0:Si基板より), (b) Si-2p (Si4+:SiO2膜より), (c) O-1s (SiO2膜より)




図3:Si-2p (Si4+:SiO2膜より)/Si-2p (Si0:Si基板より)の光電子強度比の検出角度依存。そのシミュレーションからSiO2膜厚は10Åと求められた。




山口 哲二

『紫外線光電子分光法によるシリコン薄膜成長素過程の解析』(卒業論文、平成元年度)

 シリコン薄膜成長素過程における表面反応機構を解明するために、 ガスソース分子線エピタキシー(Gas-source Molecular Beam Epitaxy: GSMBE)によるSi気相成長中の表面状態を、 紫外線光電子分光で「その場」観察できる複合表面解析装置を開発した(図1)。 通電加熱で高温に保ったSi表面の観察において問題になる光電子軌道の偏向(加熱電流による磁場のため)と光電子スペクトルのシフト(試料の位置に依存して分布する電位のため)を 解決するために、試料加熱と光電子信号取り込みを交互に行なうためのパルス回路(図2, 3)を開発し、そのために必要とされるパルス加熱用のDC定電流電源も開発した(図4)。 実際に、高温に加熱しながらSi(001)表面の光電子スペクトルを測定したときに、エネルギー・シフトなどの問題がないことを示した。




図1:シンクロトロン放射光(BL11C, Photon Factory)を用いたリアルタイム光電子分光の測定・制御系のブロック図。




図2:リアルタイム光電子分光用に開発したパルス発生回路図。




図3:パルス発生回路における、試料加熱と光電子信号取込みのタイミングチャート。




図4:リアルタイム光電子分光のSi基板加熱用に開発したDC定電流電源回路図。




図5:800℃で「その場」観察した清浄Si(001)2×1表面の光電子スペクトル。比較のために、室温で測定した自然酸化膜/Si(001)表面の光電子スペクトルと、両者の差分を示す。




松吉 聡

『Ge/GaAsへテロ接合界面の固相反応の研究』(修士論文、昭和63年度:現在、日立製作所株式会社)

 Ge/GaAsへテロ接合界面の固相反応を解明するために、X線光電子分光と紫外光電子分光、 そして反射高速電子回折を用いてGaAs(001)表面へのGe蒸着過程における化学結合状態の変化を調べた。希ガス放電管のHe圧力を変えることにより、 He-I(21.22 eV)だけでなくHe-II(40.8 eV)も十分な強度で利用できるように調整し、二つの条件での光電子スペクトルの差分をとることで、 Ga 3d光電子スペクトルを高分解能で観察できることを見いだした(図1)。 Ge蒸着GaAs(001)界面について、Mg Kα線(1253.6 eV)を用いたGa- 3d、Ge 3d、As 3d光電子スペクトルの観察に加えて、高分解能Ga 3d光電子スペクトルのピーク分離解析から、 Geの深さ分布と、表面のGaとAsの分布について、定量的な構造モデルを提案した。




図1:清浄GaAs(001)c(8×2)表面のUPSスペクトルのHe圧力依存(0.3 Torrと1.5 Torr)。検出角度は(a) 0o(バルク敏感)、(b) 80o(表面敏感)。




図2:検出角度は0o(バルク敏感)で測定した清浄GaAs(001)c(8×2)表面のGa-3d光電子スペクトル。 二つの表面成分S1とS2、そしてバルク成分Bを用いて行なったピーク分離解析も重ねて示す。




図3:検出角度は80o(表面敏感)で測定した清浄GaAs(001)c(8×2)表面のGa-3d光電子スペクトル。二つの表面成分S1とS2、そしてバルク成分Bを用いて行なったピーク分離解析も重ねて示す。




大山 直樹

『シリコンヘテロ接合界面における構造の研究』(修士論文、昭和63年度:現在、三菱重工業株式会社)

 シリコンヘテロ接合界面における構造を解明するために、ガスソース分子線エピタキシー(Gas-source Molecular Beam Epitaxy: GSMBE)機能付き のAl合金製複合表面解析装置を開発した。 この装置の主要部であるAl合金製の真空槽と液体窒素シュラウド/クライオパネルおよび真空排気系の設計・製作・組み立てを行なった。 成長用として、2系統のクヌードセンセル、2系統のガスドーザ、電子ビーム蒸着源が備えられている。 表面解析はオージェ電子分光と組み合せた反射高速電子回折(RHEED-AES)で行なえるように開発を進めた。このような成長と表面分析を効率的に行なうために、 専用の試料マニピュレータの開発も行ない、入射角度依存のRHEED観察も問題なく行なえることが分かった。 さらに薄膜成長モニターのためにRHEED強度振動観察のための画像取込み・処理システムの開発も行なった。




図1:ガスソースMBE機能付きAl合金製複合表面解析装置に取り付けた自作の試料マニピュレータ。X-Y-Zの3軸並進移動、θ-φの2軸回転が可能。




図2:Al合金製複合表面解析装置を用いて観察したSi(111)7×7表面のRHHED回折パターン。




藤田 真也

『表面構造解析法による半導体・金属へテロ界面の固相反応に関する研究』(卒業論文、昭和63年度)

 表面構造解析法による半導体・金属へテロ界面の固相反応機構の解明を目的として、角度分解X線光電子分光(Angle Resolved X-ray Photoelectron Spectroscopy:ARXPS)と反射高速電子回折(Reflection High-Energy Electron Diffraction:RHEED)を用いて (NH4)2Sx処理したGaAs(001)表面とAu蒸着へテロ界面の化学組成の深さ分布を調べた。 (NH4)2Sx処理したn型GaAs(001)表面のGa-3d、As-3d、S-2s光電子強度の極角依存の解析から(図1, 2)、表面には約2原子層の硫黄が吸着していることを明らかにした。 そして、加熱による硫黄脱離過程における表面組成をXPSで分析し、(NH4)2Sx処理後に見られた酸化物は、280℃加熱ではAs酸化物が、540℃加熱ではGa酸化物が除去されることを明らかにした。 表面構造については、(NH4)2Sx処理/加熱により(1×1)構造が明瞭に観察され、(NH4)2Sx処理/加熱をしないときにはハローパタンしか見られず、(NH4)2Sx処理が表面/界面構造に対して顕著な効果をもつことが分かった。




図1::(NH4)2Sx処理したn型GaAs(001)表面のGa-3d、As-3d、S-2s光電子強度の極角依存。




図2:図1の結果から得られた光電子強度比I(S-2s)/I(Ga-3d)、I(S-2s)/I(As-3d)、I(As-3d)/I(Ga-3d)の極角依存。