東北大学多元研 高桑研究室 本文へジャンプ

博士・修士・卒業論文の要旨



角 治樹

『光電子制御プラズマCVDによる多層グラフェン成長の研究』(平成21年度、修士論文:現在、NECトーキン株式会社)

 次世代集積回路の多層配線応用のカーボン材料合成プロセスの開発を目的として、光電子プラズマCVDの放電機構を調べ、Si基板への多層グラフェン成長条件を系統的に検討した。Ar、He希釈CH4ガスについて放電特性を詳しく測定し、成長条件を決定した。成長した膜を高輝度放射光を用いたX線光電子分光と斜入射X線回折、ラマン分光、四端子法による電気抵抗率測定により、キャリアガスとしてArガスを用いた場合、多層グラフェンの結晶性が約500℃以下で著しく低下し、室温ではDLCとなってしまうが、He希釈のとき室温でもDLCとならずに多層グラフェンが成長でいることを見いだした。このような多層グラフェンの結晶性の低下に対応して、電気抵抗率も顕著に増大することを観察した。そして、Ar希釈CH4濃度依存から、結晶性が約17%で最も良くなることを見いだし、これに対して多層グラフェン成長機構モデルを提案して、多層グラフェンとSi基板の間に結晶性が低い炭素膜の遷移層が介在することを指摘した。

キーワード:光電子制御プラズマCVD、多層グラフェン、ラマン分光、配線応用、成長機構




図1:光電子制御プラズマCVD装置一号機のブロック図と装置全体の写真。Xeエキシマランプ(hν= 7.2 eV)を光源として、約3×10mm2の面積に多層グラフェンを成長できる。成膜用基板はSiヒータにMoクリップで固定(右下)。




図2:Si基板表面からの放電電流についてバイアス電圧依存:黒丸(真空中での紫外光照射)、青丸(Arガス雰囲気中、紫外線照射なし)、赤丸(Arガス雰囲気中、紫外線照射有り)。赤丸の曲線において、急激な放電電流増加後は光電子制御グロー放電領域、それよりも低バイアス電圧では光電子制御タウンゼント放電領域である。紫外線照射により、グロー放電は紫外線照射領域に限定して発生(左下)。左上の模式図に示すように、光電子制御タウンゼント放電ではα作用(最初基板から放出された光電子とAr原子の衝突によるAr+イオン生成、その後は二次電子による電離がカスケード的に発生)が主で、光電子制御グロー放電ではα作用に加えγ作用(Ar+イオンの衝突により基板表面から二次電子放出)が顕著になる。




図3:光電子制御グロー放電により自然酸化膜付きSi基板に成長した多層グラフェンのC 1s光電子スペクトル(左)とラマン分光スペクトル(右)の成長温度依存。Ar希釈CH4濃度は17%。C 1s光電子スペクトルの解析から、成長温度の低下によりアモルファス成分やグラフェンシートの欠陥が増加することに加え、ラマン分光スペクトルの解析から10 nm程度のサイズのグラファイト粒子から、室温ではダイヤモンド・ライク・カーボン(Diamond-like carbon: DLC)となることが示唆された。




図4:東北大学機械系の学位記伝達式が開催された東北大学川内萩ホールの入口にて(2010/3/25)。




図5:卒業式も終了し、居室の後片付けの合間に(2010/3/26)。


修士研究を振り返って:

 大学院での研究は真空装置をはじめとして全てが新鮮であり、ゼロからのスタートでした。本当に幸運であったことは、真空ポンプや放電現象などの原理を学ぶ機会が沢山与えられたことです。また、未熟でありながらも実験で得られた研究結果を学外で発表することを研究室より後押ししていただきました。このような積極的な研究発表や意見交換の場であるゼミや学会を通して、自分の研究テーマに対する理解が着実に深まり、研究一年目の終わりには、実験手法の優位性を前面に出してゆきたいというモチベーションをもって研究に取り組んでゆくことができました。
 結論から言うと、狙いをもってチャレンジしたことは全く無駄になりません。その目的(目標)があるからです。そして、どのような実験結果でもその原因を深く突き止めてゆくと常識を超えた現象が見えてくるかも知れません。探究心を抱くことは、研究に関わらず、現在目の前で生じている出来事の本質を見抜くための大事な姿勢だと思います。私は研究生活を通して、専門分野を幅広く学び、日々探究心や観察力を磨いてゆく必要性を大いに感じました。卒業後も高桑研究室で学んだ研究の知恵を胸に刻み、社会で活かしてゆきたいです。
   (角 治樹 2010/3/25)




大友 悠大

『光電子制御プラズマによる「基板表面処理の研究』(卒業論文、平成21年度:現在、東北大学大学院生)

  表面活性化常温接合(Surface Activated Bonding: SAB)のための基板表面処理プロセスの開発を目的として、光電子制御直流放電プラズマの放電特性測定とプラズマ発光分光観察を行なうことにより、光電子制御プラズマ発生機構を検討した。3インチSiウェハを基板としてアルゴン(Ar)と水素(H2)について、放電電流のガス圧力依存と基板バイアス電圧依存を詳しく調べ、それぞれのガスにおける電離・解離過程を明らかにした。プラズマ発光分光から中性Ar原子とAr+イオンの励起状態を観察し、また、解離したH原子の存在も確認した。このように光電子制御プラズマにより大面積のイオン源を開発でき、イオンだけでなく中性原子照射による基板表面処理の可能性を明らかにした。

キーワード:表面活性化常温接合、光電子制御プラズマ、プラズマ発光分光

2011年5月25日 大友悠大君がALC'11 Student Awardを受賞




図1:3インチ基板対応の光電子制御プラズマ装置のブロック図と真空ホットプレートの写真。Xeエキシマランプから紫外線(hν=7.2 eV)を石英窓を通して基板に照射し、光電効果により基板表面から放出される光電子を、対向電極に印加したバイアス電圧で加速することにより直流放電を制御する。プラズマ状態は放電電流と発光分光でモニターされる。左上の図は、3インチ基板表面にのみ生成した光電子制御Arプラズマの写真。




図2:プラズマ発光分光の構成図。光ファイバの先端に4枚のレンズを組み合せた集光系が取り付けられたものが超高真空対応X-Y-Zマニュピレータに固定され、光ファイバを通ってきた光は集光鏡によりCCD検出器をもつ分光器(HR-400, Jobin Yvon Inc.)に取込まれる。下図は、Si基板表面に生成した光電子制御Arプラズマからの発光スペクトル。




図3: アルファテクノ(穂高)の4インチ基板対応表面活性化常温接合装置の前にて(2010/2/5)。


卒業研究を振り返って:

 おれは航空の研究がしたい、と心に決めて東北大工学部に入学してから4年の月日が経つ。今私が研究しているテーマは表面活性化常温接合という飛行機の「ひ」の字も出てこないテーマである。3年生の研究室配属で第○希望の高桑研究室に配属が決まった時は正直なところ少しガクリときた。しかし単純なもので、研究室を見学させてもらい実験装置や目の前でプラズマが発生するのを見せてもらうと、おっ楽しそうじゃないかと興味や意欲が湧いてきて、さらにはパソコンの中で飛行機を飛ばす研究なんて…とまで開き直っていた。
  研究を始めてしばらくは実験を手伝いながら装置の使い方を憶え、慣れてくると1人で実験をやるようになっていたが、一つ後悔していることがある。当時の自分はただ実験をこなすだけであったということだ。4年生の11月に初めて学会に参加することになり、その準備を始めるところで自分がやっていた実験についての理解がほとんどなかったことに気付いた。どんな目的のための実験であり、その結果が何を意味するのかを把握しないままに実験を進めたことで、考察ができなかったのだ。その学会は先輩や先生方の助けで何とか乗り切ったが、これをきっかけに研究とは何ぞや?という本質の端っこに気づけたと思う。それからはなるべく今自分がやっている研究の目的と期待される結果を予想して研究をしてきたが、その方が理解度が大きいと思うし、なにより理解できる分研究が面白くなるのである。
 どんなことでも、自分からやる気になって突き詰めていけば面白くなるのである。大学院進学時は自信を持って第1希望に高桑研究室を書けていた。
   (大友悠大 2010/10/13)




穂積 英彬

『歪みSiゲートスタックの酸化膜形成機構の研究』(卒業研究、平成20年度:現在、東北大学大学院生)

 歪みSiゲートスタックの酸化膜形成機構の解明を目的として、 Si(001)表面をエチレン(C2H4)による炭化反応で形成したSi1-xCx合金層(x = 0.03) の酸化反応過程を高輝度放射光を用いたX線光電子分光でリアルタイム観察し、 酸化速度の変化とSiO2/Si界面での炭素原子の挙動を調べた。清浄表面に比べて、 酸化膜成長速度が促進されるだけでなく、SiO2/Si界面での炭素拡散が促進されることを明らかにした。

キーワード:CMOSゲートスタック、SiO2/Si界面、酸化誘起歪み、表面Si1-xCx合金層、表面Si1-xGex合金層、光電子分光、高輝度放射光




図1:酸化誘起歪みによりSiO2/Si(001)界面での酸化速度が著しく変化することがリアルタイム表面観察から明らかにされたが、Si(001)基板に機械的弾性変形により引っ張り、もしくは圧縮歪みを加えることにより、SiO2成長速度が増減する。このようなSiO2酸化膜成長速度の変化は、緩和Si1-xGexを用いて形成した歪みSi酸化反応でも見られる。とりわけ、緩和Si1-xGexによる歪みSi基板の酸化反応では、SiO2成長速度が歪みなし基板に比べて変化するだけでなく、Geは全く酸化されず、SiO2/Si(001)界面でGe濃縮が生じる。そのため、異種原子混入による歪みSi基板の酸化反応過程では、SiO2膜成長速度だけでなく、異種原子の挙動も一緒に調べる必要がある。




図2:エチレン(C2H4)を用いたSi(001)表面の炭化反応過程におけるSi 2p3/2光電子スペクトルの時間変化。 リアルタイム光電子分光観察はSPring-8のビームラインBL23SUに設置された表面化学反応解析装置(SUREAC2000)を用いて行なった。 炭化反応の前後でのRHEED回折パターンも示す。




図3:SPring-8/BL23SUでの実験中の写真(2009/2/15)。


卒業研究を振り返って:
 振り返って思うのは、二つ。
 一つは一人では無理だ、ということ。自分一人では、休みの日に研究室に来て研究をし、論文を書こうなんて思えない。けれども、友人との約束があると思うと、のっそりと布団から抜け出す気になる。夜に残って作業するのも、一人だと疲れるが、誰かと一緒だと頑張れる。人間、一人で頑張れるやつなんてそうはいない。
 二つ目は、「時間は短い」ということ。始める前は、一ヶ月もあれば結構な分量の論文が書ける気がしていたが、内容の正しさを吟味しながら書くような論文は、執筆速度がまったく上がらない。時間はたっぷりあっても、一つの文章を書くのにより多くの時間がかかる。サクサク書けるのは本当にしっかり勉強したいたやつだけなのだ。
 結論。自分はそれなりに頑張った。でも、時間も根性も全然足りなかった。いま見ると卒業論文がなんか薄っぺらいが、そのくらいがあの頃の自分の成果なのだと理解して、次の自分に活かしていこうと思う。
   (穂積英彬 2009/10/11)




加賀 利瑛

『LSI配線用多層グラフェンへの不純物ドーピングの研究』(卒業研究、平成20年度:現在、東北大学大学院生)

  LSI配線用多層グラフェンの低温CVD成長を目的として、 3インチ基板対応光電子制御プラズマCVD装置を用いてTaN(10 nm)/Si(001)表面での光電子制御プラズマのI-V特性を調べ、 光電子制御プラズマの生成機構とプロセス条件の最適化を検討した。 キセノン・エキシマランプからの紫外線(λ= 172 nm)により励起された光電子を用いることで、 直流グロー放電領域まで放電電流を指数関数的に増加できることを明らかにした。 この光電子制御プラズマを用いて3インチTaN(10 nm)/Si(001)表面に多層グラフェン成長を実現した。

キーワード:LSI多層配線、多層グラフェン、光電子制御プラズマCVD、プラズマ発光分光、不純物ドーピング




図1:3インチ基板対応光電子制御プラズマCVD装置のブロック図と外観写真。




図2:3インチ基板対応光電子制御プラズマCVD装置の試料ホルダー(左上)とI-V特性測定回路とプラズマ制御回路(左下)。 3インチSi基板表面のみ発生させた光電子制御プラズマ(紫色に発光している領域)(右中央)。 Xeエキシマランプからの紫外線(172 nm)を用いて光電子を励起した。基板バイアス電圧と放電電流はデジタルマルチメータで計測され、USBを通してコンピュータに取込まれる。




図3:3インチ基板対応光電子制御プラズマCVD装置を前にしての写真(2009/3/24)。


卒業研究を振り返って:
 院試の奇跡的な合格から2ヶ月。10月から卒業研究を開始したが、アメリカンフットボール部の活動が12月半ばまであり、研究に時間を割くことが難しかった。同学年の穂積君は毎日がんばっているのを見ながら、部活終了後は土日返上という誓いを高桑先生と交わし、土日は部活、平日は授業と部活の合間に小川さんや高桑先生によるゼミや実験を行った。そして部活が終わった年末には必死で実験をした。このときは朝から夜まで実験だった。知識は足りないばかりだったが、部活でありあまっていた体力で何とか結果を出すことができた。
 そして3月には日本表面科学会東北・北海道支部講演会だけでなく、2009年(平成21年)春季第55回応用物理学関係連合講演会で発表することができた。
 卒業研究の期間はそれほど長くはなかったが、この卒業研究で大学に来て始めて勉強をした気がする。卒業論文を書くことがこれほど大変とは思っていなかった。書くには書く内容すべてを知っていなければならない。しかし、それには前提知識も時間もまったく足りない。そして何より速さが足りない。私は思いました。一番大変なことは「知らない」ことだということを。知らないことに気づくのに発表準備をすることや論文を書くことはとても大切だと。さらに知らないことを知るためには膨大な時間が必要だということを。それはとても数ヶ月では足りなすぎると。
 再び卒業論文を読み返すと、おかしい部分が色々あったし、考察も難しく考えすぎているような気がした。現在、当時に比べて知識も増え、考えられる材料も増えたが、まだまだ足りないと思う。「知りたい」と思う気持ちを大切にして一日一日を過ごしていきたい。
   (加賀利瑛 2009 10/11)




小川 修一

『熱酸化プロセスによる極薄シリコン酸化膜形成機構の研究』(博士論文、平成19年度:現在、東北大学)

 CMOSゲートスタックの極薄SiO2絶縁膜の熱酸化プロセスによる形成機構の解明と制御のために、 Si(001)表面酸化反応過程を(a)オージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)、 (b)高輝度放射光を用いたX線光電子分光、(c)He-I共鳴線を用いた紫外光電子分光でリアルタイム観察した。 酸化膜の成長・分解速度とSiO2/Si界面での構造欠陥の相関から、酸化誘起歪みによる点欠陥発生(放出Si原子+空孔)を用いて、 (1) SiO2/Si界面での酸化膜成長(点欠陥 + O2 → 酸化膜)、 (2) SiO2/Si界面での酸化膜分解(酸化膜 + 放出Si原子 -> SiO脱離)、 (3) 電気的に活性な構造欠陥(界面で未酸化の空孔【Pbセンター】、酸化膜中で未酸化の放出Si原子【E’センター】)を統合的に説明できることを明らかにした。

キーワード:CMOSゲートスタック、Si酸化プロセス、極薄SiO2膜成長、SiO2分解、酸化誘起歪み、点欠陥発生、RHEED-AESXPSUPS、STM、リアルタイム観察

2009年2月4日 小川修一君が第24回井上研究奨励賞を受賞   
2008年3月25日 小川修一君が平成19年度東北大学総長賞を受賞   
2007年11月12日 小川修一君が第16回真空進歩賞を受賞   
2007年9月4日 小川修一君が第29回応用物理学会論文賞を受賞   
2007年3月27日 小川修一君が第21回応用物理学会講演奨励賞を受賞   
2006年11月14日 小川修一君がIWDTF06 Young Researcher Awardを受賞   
2006年2月4日 小川修一君が第11回ゲートスタック研究会服部賞を受賞   
2005年3月25日 小川修一君が日本機械学会三浦賞を受賞




図1:次世代CMOSデバイス開発においてもドライ酸化による極薄SiO2膜形成の理解と制御は不可欠。




図2:極薄SiO2膜形成機構の解明のために開発した、(a)オージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)、 (b)高輝度放射光を用いたX線光電子分光、(c)He-I共鳴線を用いた紫外光電子分光によるリアルタイム観察対象と、相互の関係。




図3:熱酸化プロセスによる極薄SiO2膜形成の統合Si酸化反応モデル。




図4: カリフォルニア大学バークレー校のキャンパス位置口にて(2005/4/1)。 小川修一君がMaterial Research Society 2005 Spring Meeting(San Francisco, USA)の招待講演で渡米したとき。




図5:Advanced Light Source見学(2005/4/2)。後列左より小川修一君、遠田義晴先生(弘前大学)、渡辺正満さん(理化学研究所)。 前列左より、高桑先生、Professor C.S. Fadley(University of Calfornia & Advanced Light Source, USA)、 吉越章隆さん(日本原子力研究開発機構)。




図6:フランス・ニースの海岸にて(EMRS2006 Spring Meetingに参加したとき)。




川村 知史


『格子歪み誘起シリコン酸化反応機構の研究』(卒業論文、平成17年度:現在、キャノン株式会社)
 歪みSi表面における極薄酸化膜形成機構を解明するために、 Si1-xCx合金層/Si(001)表面の酸化反応過程をオージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)により リアルタイムモニタリングし、酸素吸着曲線と表面構造の変化を同時に測定した。 Si1-xCx合金層はエチレン(C2H4)によるSi(001)表面の炭化反応で形成し、 基板温度を変えて酸化反応を開始したとき、基板温度に依存して表面酸化における 酸化膜成長速度が顕著な影響を受けることを見いだした。 この温度依存の傾向は、Si1-xCx合金層の炭素濃度xが~0.1程度と少ないのでSi-C結合の安定性では説明できず、 その原因として小さな原子半径をもつC原子がSi結晶中に置換することで生じる格子歪みが示唆された。

キーワード:表面Si1-xCx合金層、ダイマー誘起歪み、酸化誘起歪み、Si表面酸化、Si表面炭化反応、リアルタイムRHEE-AES




図1:ドライ酸化によるSiO2膜形成において、酸化誘起歪みによる点欠陥発生により影響を受けるだけでなく、 Si基板の機械的歪みによっても酸化速度が変化する。




図2:エチレン(C2H4)によるSi(001)表面の炭化反応過程におけるリアルタイムRHEED観察。 Si1-xCx合金層のc(4×4)構造に起因するRHEED回折スポットの時間発展と、それぞれのC2H4暴露時間における表面構造モデル。




図3:Si表面酸化過程におけるO-KLLオージェ電子強度の時間発展:清浄Si(001)2×1表面(赤丸)、炭化Si(001)c(4×4)表面(青丸)。 酸化温度が600℃以下のラングミュア型吸着の表面酸化様式では初期酸化速度だけでなく飽和レベルも、 Si1-xCx合金層ではxが~0.1であるにもかかわらず顕著な影響を受けている。 これに対して、エッチングをともなう二次元島成長の表面酸化様式では、酸素吸着曲線に大きな違いは見られない。




小川 修一

『熱酸化プロセスによる極薄シリコン酸化膜形成機構の研究』(修士論文、平成17年度:現在、東北大学)

 CMOSFETゲートスタック用の高品質極薄シリコン酸化膜の形成機構を明らかにするために、 Si(001)表面での酸化膜成長・分解反応過程をオージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)と 走査トンネル顕微鏡(STM)で観察し、酸化膜の成長・分解速度と表面・界面の構造/形態を調べた。 酸化膜成長速度と酸化膜分解速度の相関から、真空中とO2雰囲気中での反応にも関わらず、 両者は同じSiO2/Si界面反応で律速されていることを見いだした。 その温度依存から第一層酸化膜形成において蓄積される酸化誘起歪みにより生じる点欠陥発生(放出Si原子+空孔)が 原因であることを指摘した。 さらに、STM観察から二次元島成長は脱離前駆体SiO*の拡散/脱離/集合により進行する表面反応モデルを提案した。

キーワード:CMOSゲートスタック、Si酸化プロセス、極薄SiO2膜成長、SiO2分解、酸化誘起歪み、点欠陥発生、RHEED-AESUPS、リアルタイム観察




図1:SiO2/Si界面での第二層SiO2膜成長と、SiO2膜分解におけるSiO2/Si界面でのボイド核発生における酸化誘起歪みによる 点欠陥発生(放出Si原子 + 空孔)の役割を調べるために行なった実験手順。




図2:Si(001)表面の極薄酸化膜の分解過程におけるO-KLLオージェ電子強度の時間発展: 表面酸化様式がラングミュア型吸着(青丸)と、二次元島成長で酸化膜を形成し、両者の酸化膜厚は~0.5 nmで同じである。 それにも関わらず、酸化膜が完全に除去されるまでに要する時間が約8倍も長くなることを見いだした。




図3:複合表面解析装置(RHEED-AES)の前での写真。 左から影島博之さん(NTT)、高桑先生、植松真司さん(NTT)、小川修一君(2004/10/19)。




大平 雅之

『Ti表面酸化のリアルタイム光電子分光観察』(卒業論文、平成16年度)

 Ti表面での極薄酸化膜形成機構を解明するために、 Ti(0001)表面酸化反応過程を紫外光電子分光でリアルタイム観察し、O 2pと価電子帯の光電子強度、そして仕事関数を同時に測定した。 O 2p光電子強度からも求めた酸素吸着曲線の時間発展から、200℃以上の高温酸化では、酸化速度の加速・減速を繰り返しながら酸化膜成長が進行することを観察した。 仕事関数の変化と価電子帯光電子強度のO 2p光電子強度との相関から、高温酸化では表面酸化状態の進行をともなわないで酸化膜成長、 すなわち、吸着酸素が酸化膜内部へと容易に拡散することが示唆された。

キーワード:Ti表面酸化、不動態膜、UPS、リアルタイム観察、酸化状態、仕事関数




図1:MoヒータにMoワイヤで固定したTi(0001)表面の試料。Moヒータにスポット溶接で固定したクロメル-アルメル熱電対を用いて、試料温度を測定する。




図2:Ti(0001)表面の酸化過程における価電子帯光電子スペクトルの時間発展(O2曝露量依存)。 酸化温度は400℃、O2圧力は3×10-7 Torr、励起光はHe-I共鳴線(21.22 eV)である。 図中の式図は、O-2p光電子強度と価電子帯強度を求めるためのバックグラウンドを直線で近似したことを示す。




図3:O 2p光電子強度と価電子帯光電子強度のO2曝露量依存。酸化温度は100℃、200℃、300℃、400℃、O2圧力は3×10-7 Torrである。 酸素吸着曲線に振動がみられ、酸化膜成長速度が増減しながら酸化反応が進行していることを示している。また、価電子帯強度にも振動が見られ、 酸化状態の変化も一様にTiO2へと進行するのではないことを示している。




八木 貴之

『高温ダイヤモンド表面からの電子放出の研究』(修士論文、平成15年度:現在、東北電力株式会社)

 水素終端ダイヤモンドの負性電子親和力(Negative Electron Affinity: NEA)による高効率電子源としての 性質を利用したダイヤモンド気相合成プロセスを開発するために、高圧合成ダイヤモンド表面での水素吸着・脱離過程を紫外光電子分光で「その場」観察し、 電子親和力、二次電子放出収率、水素被覆率を一緒に測定した。それらの相関の基板温度依存から、二次電子放出収率が2種類の水素(バルク中の水素、表面吸着水素) により支配されており、前者は約300℃で脱離するのに比べ、後者は約700℃まで安定であり、ダイヤモンド表面をNEAに持続させていることが分かった。

キーワード:ダイヤモンド、水素終端、負性電子親和力、電子放出源、UPS




図1:MoヒータにMoワイヤで固定されたBドープp型高圧合成ダイヤモンド(001)表面の試料の写真と模式図(右)。 リアルタイムUPSのブロック図(左上)と、NドープIb型とBドープp型高圧合成ダイヤモンド(001)表面の試料の写真(左下)。




図2:ダイヤモンド表面の紫外光電子スペクトルから、二次電子放出強度、伝導帯下端(CBM)、電子親和力、表面吸着水素量を求める手順の模式図。




図3:ホウ素(B)ドープp型高圧合成ダイヤモンド(001)表面をラジカル水素を用いて室温で飽和吸着後に、加熱過程における二次電子領域のUPSスペクトルの試料温度依存。 約700℃で吸着水素が表面から熱脱離するために、ダイヤモンド表面の電子親和力が負から正へと変化するために、二次電子放出収率が顕著に減少している。




2007/10/25 研究室に立ち寄られたとき。




東 誠二郎

『極薄酸化膜形成によるTi表面不動態化の研究』(卒業論文、平成15年度:現在、株式会社神戸製鋼所)

 極薄酸化膜形成によるTi表面不動態化の反応機構を解明するために、 Ti(0001)表面酸化反応過程を高輝度放射光を用いたX線光電子分光(ビームラインBL23SU, SPring-8)、 He-I共鳴線(21.22 eV)を用いた紫外光電子分光でリアルタイム観察し、Ti酸化状態の変化を調べた。 バルク敏感(=1549 eV)で測定されたTi 2pとO 1s光電子スペクトルのピーク分離解析、 そして、表面敏感なO 2p光電子スペクトルとフェルミ準位Ef近傍の光電子強度の解析から、 400℃での酸化反応では形成された酸化膜における酸化状態の深さ分布として、表面近傍と界面近傍に酸化状態の低いTiOx (x < 2)が多く、 中央部ではTiO2が多いことを明らかにした。

キーワード:Ti表面酸化、不動態膜、UPS、リアルタイム光電子分光、高輝度放射光、酸化状態、仕事関数




図1:Ti(0001)表面の400℃での酸化過程における(a) Ti 2pと(b) O 1s光電子スペクトルから求めた酸化状態、 (c) UPSスペクトルから求めたフェルミエッジの光電子強度とO-2p光電子強度のO2曝露量依存。




図2:リアルタイム光電子分光観察から求められた、400℃での酸化反応でTi(0001)表面に形成された極薄酸化膜の化学組成の深さ分布モデル。




小川 修一

『RHEED-AESによるSi極薄酸化膜形成機構の研究』(卒業論文、平成14年度:現在、東北大学)

 Si極薄酸化膜形成機構を酸化誘起歪みにともなう欠陥発生の観点から解明するために、 Si(001)表面酸化過程をオージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)を用いてリアルタイム観察し、酸化膜被覆率と表面構造/形態を一緒に調べた。 ラングミュア型吸着による表面酸化過程において、未酸化の清浄表面領域の1×2と2×1分域の比率が酸化膜成長とともに変化することを見いだした。 この変化は酸化誘起歪みによる点欠陥発生により放出されたSi原子が表面拡散し、ステップに取込まれたためであることを明らかにし、 表面酸化終了において約0.4 MLのSi原子が放出されることが見積もった。

キーワード:CMOSゲートスタック、Si酸化プロセス、極薄SiO2膜成長、酸化誘起歪み、点欠陥発生、RHEED-AES、リアルタイム観察、Si原子放出モデル




図1:p型Si(001)表面酸化過程におけるO-KLLオージェ電子強度の時間発展:(a)ラングミュア型吸着(酸化温度:626℃)、 (b) 二次元島成長(酸化温度:643℃)。O2圧力は1.4×10-7 Torrである。




図2:Si(001)表面酸化過程における(1/2, 0)と(0, 1/2)回折スポット強度の時間発展。 回折スポット強度比(1/2, 0)/(0, 1/2)は酸化前の3.2から、ラングミュア型吸着による酸化膜形成にともない、急速に減少している。 これは1×2/2×1分域比の変化に対応しており、SiO脱離によるエッチングはないので、酸化誘起歪みによるSi原子放出が原因であることが示唆された。




川和 拓央

『リアルタイムモニタリングRHEED-AES法によるSi極薄酸化膜形成過程の研究』(修士論文、平成13年度:現在、宮城県庁)

Si極薄酸化膜形成における初期表面酸化の役割を解明するために、Si(001)表面酸化反応過程をオージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)でリアルタイムモニタリングし、 酸化膜成長速度と一緒にエッチング速度を測定することを可能とした。最初に、RHEED-AES用の電子ビームがO2ガス導入により不安定になるのを防止するために、 差動排気付き電子銃を設計・製作・調整を行ない、10-4 TorrまでのO2ガス雰囲気で安定してRHEED-AES観察を行なうことを可能とした。 酸化膜成長速度とエッチング速度の温度依存から、ラングミュア型吸着から二次減島成長への相転移、 そして、二次元島成長からエッチング(Active oxidation)への相転移の条件(O2圧力、温度)を明瞭に決定し、それぞれのSi酸化様式での表面反応モデルを提案した。

キーワード:CMOSゲートスタック、Si酸化プロセス、極薄SiO2膜成長、酸化誘起歪み、点欠陥発生、RHEED-AES、リアルタイム観察、相転移、RHEED電子銃




図2:RHEED用の差動排気付き電子銃の図面。




図3:複合表面解析装置に取り付けられたRHEED用の差動排気付き電子銃の外観写真。




図4:Si(001)表面酸化過程のリアルタイムRHEED-AES観察。(a) O-KLLオージェ電子強度、(b) (1/2, 0)/(0, 1/2)RHEED回折スポット強度比の時間発展の酸化温度依存。 O2圧力は1.4×10-6 Torrである。約700℃でpassive oxidationからactive oxidationへの相転移、そして、約630℃でラングミュア型吸着から二次元島成長への相転移が見られる。




八木 貴之

『高温ダイヤモンド表面の電子状態の研究』(卒業論文、平成13年度:現在、東北電力株式会社)

 表面局所プラズマプロセスによるダイヤモンド気相合成における表面反応機構を解明するために、 複合表面解析装置の水素ラジカル源と紫外光電子分光(UPS)用の希ガス放電管/差動排気/ガス供給部の改良・調整を行った。 また、通電加熱された高温試料表面をUPSで「その場」観察するために用いるパルス発生回路を詳しく調整することにより、 二次電子の低エネルギー立ち上がり(low-energy cut-off)から真空準位を精度良く求めることを可能とした。 実際に、Si(001)表面の真空準位の温度依存を真空中とH2雰囲気中で観察した。

キーワード:ダイヤモンド、水素終端、負性電子親和力、電子放出源、UPS




図1:表面局所プラズマによるダイヤモンド気相成長の模式図。




図2:清浄Si(001)2×1表面と水素終端した表面のUPSスペクトル。それぞれの表面の構造モデル。




吉新 裕保

『ダイヤモンド気相成長の基礎過程の研究』(修士論文、平成12年度:現在、富士通株式会社)

 ダイヤモンド気相成長の基礎過程を解明するために、簡易型CVD装置を製作/組立/調整し、 高圧合成ダイヤモンドC(001)表面での局所プラズマ発生機構を調べた。ダイヤモンド表面を水素終端することにより、 直流放電プラズマ(グロー放電)を横方向はダイヤモンド表面領域にのみ限定し、縦方向は~1 mm程度の極めて空間的に限定されたプラズマを制御できることを明らかにし、 水素終端ダイヤモンド表面の負性電子親和力(Negative Electron Affinity: NEA)が重要な役割を担っていることを示した。 この局所プラズマの放電条件依存(放電電流、ガス圧力、基板温度、基板の種類)を系統的に調べ、ダイヤモンド表面のエッチング及び薄膜成長が可能なことを示した。

キーワード:ダイヤモンド、気相合成、エッチング、プラズマ生成機構、負性電子親和力




図1:局所プラズマ実験用の簡易CVD装置の外観写真。




図2:局所プラズマのI-V特性評価のための回路図。




図3:高温高圧合成ダイヤモンドC(001)表面に形成した局所プラズマの写真。H2圧力は0.07気圧、温度550℃である。