東北大学多元研 高桑研究室 本文へジャンプ

実験手法の紹介



現有実験設備 (2014年4月28日現在)





(1) オージェ電子分光と複合化された反射高速電子回折によるリアルタイム観察


 

本研究では、表面構造・形態と一緒に化学組成と表面構造・形態のリアルタイムモニタリングを簡便かつ汎用的に遂行できる方法として、SEMの複合化の場合と同様に、 下図に模式的に示すようにRHEEDの斜入射電子プローブにより励起されたエネルギー損失電子、オージェ電子、特性X線に着目した。それぞれを用いて、RHEED観察中に化学組成分析が同一場所で同時に可能である。




RHEED観察と化学組成分析の複合化


 反射電子エネルギー損失分光(Reflection Electron Energy Loss Spectroscopy:REELS)では、エネルギー損失電子がプローブ電子とほぼ同じ10-30 keVの運動エネルギーEkをもつため、XPSやAESのための通常の静電偏向型電子エネルギー分析器は使用できず、 高エネルギー分析用の磁場偏向型もしくはΩフィルターが使用されている。 他方、特性X線を用いる全反射角X線分光(Total-Reflection-Angle X-ray Spectroscopy:TRAXS)では、エネルギー分散型X線分光器(Si(Li)型SSD)を真空槽外の大気中に設置できるので測定機器の調整は容易であるが、 表面感度を高くするため特性X線の取り出しを1°以下の全反射角で行うので、試料の角度・位置調整が難しい問題がある。さらに、観察対象としてSiとTi表面酸化を調べるとき、 O、Si、Tiは軽元素であり、K殻に生成したホールの緩和過程は特性X線を放出する輻射遷移よりも、KLLオージェ電子を放出する無輻射遷移の収率が高い。さらに、O KLLオージェ電子(Ek = 〜500 eV)の脱出深さでAESの表面感度は決まるので、 電子エネルギー分析器を表面垂直方向に設置しても〜10 Aの表面感度となる。これらのことをまとめた下記比較表から、そのため、SiとTi表面酸化過程などにおける 表面構造/形態と化学組成を一緒にリアルタイムモニタリングする方法として、 AESと複合化したRHEED(Reflection High-Energy Electron Diffraction combined with Auger Electron Spectroscopy:RHEED-AES)を開発した。



RHEEDと複合化した三つの組成分析法の比較



その結果、下図の清浄Si(001)表面と水素終端Si(001)表面のSi LVVオージェ電子スペクトルで見られるように、通常のRHEED観察条件でも、高いS/N比のAESスペクトルが得られるだけでなく、 斜入射電子励起なので試料内部からの二次電子の寄与が少なく(高いS/B比)、さらに、プローブ電子の入射角が〜5°以下のとき、表面感度はオージェ電子の脱出深さよりも浅くなり、 入射電子の侵入深さで決まる。このようにRHEED-AESは高い表面感度をもつため、Si表面酸化とTi表面酸化だけでなく、Si表面での金属原子の吸着・脱離、 Si-MBE成長中のSb表面偏析、エチレン(C2H4)によるSi表面炭化、ハードディスクの磁気記録層形成の複合表面計測にも適用された。




UV/O3クリーニングしたSi(001)表面のRHEED-AES観察




水素吸着Si(001)表面のRHEED-AES観察:表面未結合手の観察





リアルタイムRHEED-AESのための複合表面解析装置(東北大学、仙台)

 この中で、一号機のRHEED-AES複合表面解析装置のブロックダイアグラムと全体写真を下図に示す。この装置は、自作の差動排気付き電子銃、蛍光スクリーン、CCDカメラ+DVDレコーダ、 自作の完全半球型電子エネルギー分析器(平均軌道半径:132 mm)、O2ガス供給系、Siと金属蒸着源、そしてQMSから構成されている。反応槽の到達真空度は〜5×10-11 Torrであり、 〜5×10-4 TorrまでO2ガスを導入してRHHED-AES観察が可能である。真空排気系はスパッタ・イオンポンプ(SIP)、チタンサブリメーションポンプ(TSP)、そして、ターボ分子ポンプ(TMP)から構成され、 〜10-11 Torrの到達真空度を達成して、酸化反応中にO2ガスの不純物ガスを抑制するとともに、酸化反応後にO2ガスの急速排気を可能とした。電子銃と電子エネルギー分析器の入射レンズとの角度は80°に設定されているので、 RHEED観察時(入射角度θi = 1-3°)のAES検出角度は81-83°とほぼ表面垂直方向となる。




リアルタイムRHEED-AES用の複合表面解析装置:一号機


RHEED観察中のプローブ電子ビームの安定化を図るために、差動排気付電子銃を開発した。実際にオージェ信号強度が著しく安定化することがわかった。


差動排気付きRHEED用電子銃の設計/製作/調整




差動排気付き電子銃の効果:O KLLオージェ電子強度の時間発展





リアルタイムRHEED-AES測定手順とSi表面酸化への適用例

 Si表面酸化を例としてRHEED-AES観察の手順を説明する。RHEED-AES観察ではプローブ電子の強度や照射位置の揺らぎによる影響を除くため、O KLLオージェ電子スペクトルのピーク位置 (挿入図ではEk = 503.5 eV)とバックグラウンドとして立ち上がり位置(ピーク位置のEk+25 eV)の2点の強度を交互に測定し、 前者を後者で規格化することにより O KLLオージェ電子強度IO-KLLを求めた。Si基板は直接通電加熱で温度制御をしているので、加熱電流による試料電位の分だけO KLLオージェ電子スペクトルはシフトするため、 酸化温度でO KLLオージェ電子スペクトルを測定して、各温度での測定位置のEkを調節した。RHEED回折パターンはCCDカメラで測定し、DVDレコーダで記録した。実験終了後に、 画像解析ソフトウェア(Staib, RHEED Vision)、(k-space, kSA400)を用いてRHEED強度を解析した。Si(001)表面酸化において、未酸化領域の2×1と1×2構造の分域比を求めるため、 プローブ電子を[001]方位から入射させ、1/2次の(1/2 0)と(0 1/2)回折スポットを同じ条件で観察した。各スポットを中心として□で囲んだ領域内の積分強度と(挿入図を参照)、 その近傍で同面積の領域をバックグラウンドとして測定し、両者の差分からスポット強度I(1/2 0)I(0 1/2)を求めた。 加熱電流の向きを逆転させることで、 酸化前のSi(001)表面の2×1/1×2分域比Rdomainを制御することができる。 酸化により凸などが成長してSiO2/Si界面が荒れると、透過スポットが出現する。 このような荒れの程度を見積もるため、1/2次スポットと同様にして透過スポット強度Ibulkを求めた。 また、酸化膜は基本的にアモルファスなのでハローパターンのバッグランドを与えるため、 酸化膜で覆われているにもかかわらずSiO2/Si界面の原子スケールでの平坦性を、 鏡面反射スポット強度I(0 0)から評価することができる。




Si(001)表面酸化のリアルタイムRHEED-AES観察





(2) 紫外光電子分光によるリアルタイム観察



 UPSによる価電子帯光電子スペクトルでは、表面の化学結合に関与している電子状態を直接観察できるので、酸化やCVDなどのドライプロセスの表面反応機構を調べる手法として大変に有効である。 その励起光源として放射光だけでなく、HeやNeなどの希ガスを直流放電、もしくはマイクロ波放電により真空紫外線を発生させる希ガス放電管が使用できる。 多くの場合、強度の観点からHe-I共鳴線(hν= 21.22 eV)が用いられるが、マイクロ波型ではHe-II共鳴線(hν= 40.8 eV)も十分な強度が得られる。希ガス放電管では二段(直流放電型)、 もしくは一段(マイクロ波放電型)の差動排気が付随しているので、光源に対する反応ガスの逆流対策は必要ない。そのため、内殻準位光電子分光と異なり、 価電子帯のリアルタイム光電子分光を実験室でも容易に遂行することができる。これまで、価電子帯光電子分光によるリアルタイムモニタリングはSi酸化だけでなく、 SiガスソースMBE、塩素によるSiエッチング、そして、水素終端Si表面の放射光励起清浄化に適用された。


リアルタイムUPSのための複合表面解析装置(東北大学、仙台)

本研究では、希ガス放電管と放射光を併用するとき移動型の複合表面解析装置、He-I共鳴線のみを使用するときに固定型のものを開発した。




放射光を用いた紫外光電子分光のための複合表面解析装置




リアルタイムUPS用の複合表面解析装置:RHEED-AES, CL, ESDと複合化




リアルタイムUPS用複合表面解析装置の外観




冷陰極型希ガス放電管/二段差動排気部/希ガス供給部


 二段差動排気付き直流放電管は、自作と市販(Thermo, UVL)のものを用いた。価電子帯光電子素分光において、Ti基板はMoリボン・ヒータにTa線を用いて直接固定し、 Moリボンへのパルス電流による直接通電により加熱した。また、Si基板はTa箔電極で支持し、試料にパルス電流を直接通電して加熱した。 この場合、加熱電流による磁場により、 光電子の軌道は偏向され、とりわけ、真空準位を求めるために測定する低エネルギー・カットオフ近傍の二次電子は、 試料表面から飛び出すときのEkが極めて小さいために著しく磁場の影響を受ける。さらに、Si基板やMoリボンでの試料電位(加熱電流による試料位置に依存した電圧降下)のために、 試料温度に依存した光電子スペクトルのエネルギー・シフトを引き起こす。これを防ぐため、光電子のゲート回路とパルス電流を加熱に用いた。加熱用直流電源の出力をオン/オフすると、 電源動作が不安定になるだけでなく、パルス波形も歪む。そのため、試料とダミー抵抗(試料とほぼ同じ抵抗に調整されたパワー・トランジスタ)を 高速スイッチング用トランジスタで切り替えることにより、直流電源の出力を一定に保ったままで、試料にパルス電流を供給した(繰返し周期の〜70%のデューティ比)。 オフ後の電流の過渡変化を考慮して、〜10%の待ち時間を設け、その後にデューティ比〜20%でゲート回路をオンにして、光電子信号を計数した。 そして、 Ti試料の温度はMoリボンに取り付けたK熱電対、Si試料は光学と赤外線パイロメータで測定した。赤外線パイロメータは予めテスト用Siウェハーを用いて、 その裏面にK熱電対をAgで接着させ、300-800℃の範囲で温度校正した。




パルス電流を用いた試料加熱(電流オフのとき信号取込み)





リアルタイムUPSの測定手順とSi表面酸化への適用例

 Si(001)2×1表面の酸化前後での価電子帯光電子スペクトルを、それらの表面構造モデルと一緒に下図に示す。二次電子スペクトルの低エネルギー・カットオフを観察するため、 試料に-5.0 Vのバイアス電圧を印加した。清浄表面で束縛エネルギーEB = 〜0.7 eVに見られるピークは、ダイマー・ダングリングボンドに起因する表面状態である。 ここで、バイアス電圧のため光電子が集められ、 下図ではある範囲の立体角について積分された光電子スペクトルとなっているのだが、表面垂直で検出しているため表面二次元ブリュアン・ゾーンの主にΓ点近傍で表面準位を観測していることになる。 酸化により表面準位ピークが完全に消失しているのは、ダイマー・ダングリングボンドに酸素が結合したためである。表面準位ピーク強度ISSは、2×1と1×2構造の分域比に依存した変調を受ける。 なぜなら、それぞれの分域の二次元ブリュアン・ゾーンで異なる波数ベクトル位置で観測しているので、表面準位のエネルギー分散による影響を受けるためである。 とりわけ、直線偏光した放射光を用いたSiガスソースMBEの観察において、Si層状成長に対応してISSは周期的振動を示す。He-I共鳴線を用いたSi表面酸化の観察では、このような強度変調は見られず、 ISSは未酸化領域の面積に比例すると考えられる。また、EB = 2-10 eVの構造は、Siバルク結晶の三次元電子状態によるものである。 酸化後にEB= 〜7 eVと〜11 eVに現れたダブレットピークはO 2p準位によるものであり、二つのピーク強度比は酸化状態に依存して変化することが知られている。 低エネルギー・カットオフが酸化によりシフトしており、仕事関数φが増大したことを示している。以上のことから、Si(001)表面酸化のリアルタイムUPSにより、 Si酸化過程において未酸化領域、酸素吸着量、酸化状態の変化、そして、仕事関数を一緒にリアルタイムモニタリングできることが分かる。




Si酸化反応の時間分解UPSの特徴と複合表面解析装置




Si表面酸化におけるSiO2膜成長と欠陥準位の同時リアルタイム観察




関連論文の要旨

論文題目:Surface dynamics on a high-temperature Si surface under a high-pressure reactive gas atmosphere studied by time-resolved UPS
著者:Y. Takakuwa
掲載誌:Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 101-103 (1999), 211-221.

[背景]] これまで表面解析の多くはプロセス終了後に室温まで冷却された試料について、超高真空下で行われてきた。 しかし、原子スケールでの表面反応制御による次世代半導体プロセスの開発や、自己組織化などに基づくナノテクノロジーの研究のためには、 固体表面での吸着・拡散・脱離・偏析などの反応ダイナミクス(表面動的過程)の解明が不可欠とされる。 そのために反応性ガス雰囲気/高温の環境下で行うことができる表面解析法が必要とされ、これまでに反射高速電子回折、斜入射X線回折、 反射電子顕微鏡などによる表面構造・形態を「その場」観察する手法、X線光電子分光やイオン散乱分光による表面組成を「その場」観察する手法が既に開発されている。


[成果]] これに対して本論文では表面電子状態に着目して紫外線光電子分光(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy: UPS)を 固体表面動的過程の「その場」観察手法として開発し、Si表面でのガスソース分子線エピタキシー(Gas Source Molecular Beam Epitaxy: GSMBE)、 塩素によるエッチング、そして酸化膜成長の表面反応ダイナミクスのリアルタイムモニタリングにおいて大変に威力的であることを明らかにした。 この成果に対して、下記の国際会議で招待講演として発表した内容をまとめたものである。

Y. Takakuwa:
“Surface dynamics on high-temperature Si surfaces under high-pressure reactive gases studied by UPS”
The 12th International Conference on Vacuum Ultraviolet Radiation Physics VUV-12 ( August 3-7, 1998, San Francisco, USA)

 Si表面でのガス分子の解離吸着はダングリングボンドにおいて生ずるので、反応性ガスを用いるドライプロセスの表面動的過程の研究ではその知見が不可欠とされるが、 これまでの表面構造や表面組成の解析からこの知見を得るのは難しかった。本UPSではダングリングボンドに関連した表面準位を高い表面感度で「その場」観察できることを示した。 それに加え表面に吸着した水素、塩素、酸素などの電子状態から化学結合状態を識別してそれらの被覆率を求めることができるので、吸着や脱離反応の解析に有効であることを示した。 このようなダングリングボンドと表面吸着種の被覆率のリアルタイムモニタリングの解析から、GSMBEではlayer-by-layer成長による表面構造と表面電子状態の関係、 エッチングでは塩素の吸着状態と脱離種の関係、そして、酸化膜成長では反応に関与するSi原子を調べ、表面拡散しているSi吸着原子がどの反応においても 重要な役割を担っていることを解明した。 このようなSi吸着原子の関与する表面動的過程は「その場」観察により初めて明らかにできるものであり、表面解析におけるリアルタイムモニタリングの重要性を指摘した。



図1:高温Si(001)表面の価電子帯光電子スペクトル:(a) 清浄表面、(b) 部分酸化した表面、(c) 全面が酸化膜で覆われた表面、(d) 塩素と反応中の表面、 (e) ジシラン(Si2H6)を用いてSiエピタキシャル成長中の表面。励起光エネルギーは21.2 eV (a-c)、22 2V (d)、23.3 eV (e)。




図2:O2ガスを用いてSi(001)表面への酸化膜を形成過程と分解過程における、O 2p準位(O-2p)とダイマー未結合手に起因する表面準位(Surface State)の光電子強度の時間発展。 基板温度は730℃、O2圧力は2×10-6 Torrである。

[展開] この研究と関連して、ジシラン(Si2H6)を用いたGSMBE中のダングリングボンドの表面被覆率の成長条件への依存、水素被覆率と水素脱離速度の「その場」観察、 Si(001)表面でのジクロロシラン(SiH2Cl2)の吸着状態、塩素脱離過程とエッチング反応、Si(001)表面熱酸化の臨界条件と表面形態などの研究をこれまで進めてきた。





(3) 高輝度放射光を用いた光電子分光によるリアルタイム観察



 内殻準位の化学シフト成分の光電子分光による表面反応のリアルタイムモニタリングのためには、挿入光源(アンジュレータ)からの高輝度放射光を必要とする。その理由は、アンジュレータからの大強度光を得られるため、低い統計誤差で速い時間分解測定を達成できるだけでなく、同時に高輝度なので分光器のスリット幅を狭めて 高いエネルギー分解能(10,000-100,000)を可能とし、さらには、円偏光を切り替えて利用できるためである。
とりわけ、300-3,000 eVの軟X線領域では数百eVまでの浅い 内殻準位が大きな光イオン化断面積をもつので、光電子強度が著しく増大する。そのため、世界の第三世代光源ではAdvanced Light Source(米国)、Elettra(イタリア)、BESSY(ドイツ)、MAX lab(スウェーデン)、そして、日本ではSPring-8において、ガス雰囲気下の固体表面を リアルタイム観察できる光電子分光ステーションの開発・建設が進められた。 ここで「高輝度放射光を用いたリアルタイム光電子分光」と呼んでいるものは、 雰囲気ガスに力点をおくときは「高圧XPS(high pressure XPS)」、サンプリング速度に力点があるときには 「高速XPS(fast XPS)」と名付けられている。




第三世代放射光施設と高圧XPS




SOLEIL (フランス):beamline ID8M




BESSY II (ドイツ):beamline U49/2-PMG1




リアルタイム光電子分光では、放射光源だけでなく、電子エネルギー分析器の改良も必要とされる。現在、リアルタイム光電子分光に用いられている電子エネルギー分析器は、 全て電子レンズ付きの完全半球型である。高速サンプリングのためには、電子エネルギー分析器の出射スリットを広げ(取り去り)、エネルギー分散と角度分散した光電子を同時計測することが効果的である。このような同時計測のために、多チャンネル検出器、位置敏感型二次元検出器、 ディレーライン型二次元検出器の開発が進められ、実用化されている。また、表面反応のガス圧力を高めると、電子エネルギー分析器内の光電子軌道においてガス分子との非弾性散乱による減衰、検出器へのガス吸着による電子増倍率の低減、 さらには放電による検出器の破壊が生ずる。これらの問題を解決するために、入射電子レンズと電子エネルギー分析器本体の差動排気が必要とされる。 既に〜10 Torrまでのガス雰囲気下でリアルタイム光電子分光が、入射電子レンズに三段の差動排気を組込むことで実現されており、本研究で行っている〜10-4 Torrまでの「その場」観察であれば、電子エネルギー分析器本体に一段の差動排気を設けるだけで十分である。






リアルタイムXPSのための複合表面解析装置(SPring-8、佐用町)

 最近の我々の研究では、SPring-8のビームラインBL23SUに設置された日本原子力研究開発機構の表面化学反応解析装置(SUREAC2000)を用いた。このエンドステーションは、日本原子力研究開発機構/量子ビーム応用研究部門/放射光科学研究ユニット/放射光表面・薄膜創製グループ/サブグループリーダー/寺岡有殿氏と、同研究副主幹/吉越章隆氏により開発された装置である。 BL23SUでは可変偏光型アンジュレータからの、330-2000 eVの軟X線領域の円偏光・直線偏光・楕円偏光が利用できる。 SUREAC2000は下図に示すように、 放射光ビーム・モニター槽、超音速酸素分子線発生源付き反応槽、SPM槽、LEED/AES付き試料準備槽、ロードロック槽から構成されている。 O2/He/Arの混合比率と、 この混合ガスの断熱膨張のためのノズル温度を変えることで、O2分子の並進運動エネルギーEtを2.3 eV程度まで制御することができる。Et = 2.3 eVのとき、 〜2×1014 molecules/cm2/sのO2フラックス密度が利用できる。反応槽の到達真空度は〜5×10-11 Torrであり、超音速分子線を使用中には10-8-10-7 Torrまで上昇するが、その分圧の殆どはHeとArによるものである。放射光ビーム・モニター槽が多段の差動排気として機能するので、分光器などへの反応ガスの流入を抑止できる。Et = 0.03 eVのときバリアブル・リークバルブを用いて、純度99.9999%の酸素ガス(室温)を反応槽に導入した。SiとTi基板は直流通電したTaリボン・ヒータからの輻射熱で加熱し、 温度はK熱電対と放射温度計で測定できる。

これまで、寺岡有殿氏と吉越章隆氏との共同研究により、SiおよびTi表面での酸化反応機構の研究を進めてきた。




表面化学反応分析装置 (SUREAC2000) (1): BL23SU/SPring-8




表面化学反応分析装置 (SUREAC2000) (2):装置全体のブロック図




超音速分子ビームの並進運動エネルギー制御





リアルタイムXPSの測定手順とTiとSi表面酸化への適用例



Ti(0001)結晶の表面清浄化とXPS/UPS/LEED/RHEEDによる評価




O 1s光電子スペクトルの酸素暴露量依存:Et = 0.55 eV




O 1s光電子スペクトルのピーク分離:Et = 0.03 eV




Si(001)表面酸化のリアルタイムXPS:酸化状態と歪みSi原子の情報





現有実験設備 (2011年8月17日現在)




複合表面分析装置一号機:RHEED-AES



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複合表面分析装置二号機:UPS, XPS, RHEED-AES, ESD-TOFMS



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複合表面分析装置三号機





光電子制御プラズマCVD装置一号機:簡易型



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光電子制御プラズマCVD装置二号機:3インチ基板対応、プラズマモニター付き



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光電子制御プラズマCVD装置三号機:イオン質量・エネルギー分析器付き



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光電子制御プラズマCVD装置四号機:2インチ基板対応



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光電子制御プラズマCVD装置五号機:3インチ基板対応





イオンミリング装置





原子間力顕微鏡





四探針プローブ測定装置





光学顕微鏡