東北大学多元研 高桑研究室 本文へジャンプ

研究内容


研究課題の概要



現在進行中のプロジェクト



これまでの研究成果





研究課題の概要






(A) Si熱酸化ダイナミクスの統合反応モデルの構築と自己組織化プロセスの開発


 Si熱酸化プロセスの見せる多様な諸現象を支配する物理的描像を確立し、それらを相互に関連づけて包括的に説明できるSi熱酸化の化学反応ダイナミクスの統合反応モデルを構築する。それに基づいて、極薄酸化膜成長で見られるLayer-by-layer酸化や自己停止酸化、そして、ナノサイズのSi構造体の形状に依存した酸化速度を示すパターン依存酸化などの化学反応機構を解明する。
 Si熱酸化ダイナミクスの統合反応モデルに基づいて酸化膜成長と分解の自己停止機能の制御条件を解明することにより、酸化膜(SiO2)中に分散したSiナノ構造体の自己組織化プロセスを開発し、Si発光デバイス、フォトニック材料、機能性デバイスなどに展開する。また、熱酸化の化学反応における酸化膜成長とエッチングの競合反応を利用して自己組織化でSiウェハー表面にナノ構造を作り込むプロセス開発を行う。




(B) ダイヤモンド気相成長機構の解明と気相合成プロセスの技術革新


 気相合成によるダイヤモンド薄膜の表面状態について、吸着水素、表面電子状態、結晶欠陥、炭素原子間の化学結合状態、表面原子配列などを「その場」観察で調べることにより、とりわけ表面近傍での吸着水素の挙動に着目してダイヤモンド成長機構を解明する。そして、吸着水素によりダイヤモンド表面にp型表面電気伝導層と負性電子親和力が生じる原因を調べ、ダイヤモンド成長での役割を明らかにする。
 ワンチップで100~200 Wに達し効率的熱冷却を必要としているマイクロ・プロセッサなどのヒートシンクとして地上で最も大きな熱伝導度をもつダイヤモンド薄膜を利用するために、ダイヤモンド成長機構と表面電子状態の知見に基づいてダイヤモンド薄膜を経済的に量産できるダイヤモンド気相合成プロセスを開発する。関連する特許(特願平10-272749、特開2000-103695)は既に成立している。




(C) 急昇温過渡的現象の表面反応ダイナミクスの解明と温度可変制御プロセスの開発


 急激な基板温度の上昇速度に依存して吸着原子・分子の脱離効率や反応生成物などが変化する過渡的現象について、脱離種に加えて表面構造と化学結合状態、そして表面電子状態をリアルタイムモニタリングすることで表面化学反応のダイナミクスを解明する。とりわけ、急昇温による表面構造の局所的な乱れや長周期構造の相転移に着目して、熱平衡反応とは全く異なる過渡的現象での物理的描像を明らかにする。ナノスケールの薄膜堆積やエッチングにおいてより低い温度で高い反応効率を実現するために、急昇温における過渡的現象の表面化学反応ダイナミクスの知見に基づき、基板温度を一定温度に保つのではなく可変制御することにより反応経路と反応効率を制御するプロセスの開発を行う。この温度可変制御プロセスはこれまでのプロセス技術の延長ではなく、物理的に異なる表面現象に基づくものである。




(D) 光電子制御プラズマ生成の物理的過程の解明と表面局所プラズマプロセスの開発


 固体表面の紫外線照射において放出される光電子による電子衝撃解離を用いたプラズマ生成過程について、基板表面の表面状態の「その場」観察と、雰囲気ガスの種類・圧力及び光電子を加速するために印加する基板バイアス電圧への放電電流の依存性から、プラズマ生成の物理的過程を解明する。とりわけ、この光電子制御によるプラズマ生成が基板表面の近傍に局在することの特異性と利点を明らかにする。
 次世代集積回路で必要とされる多層配線材料として、グラフェンの形成プロセスと高機能化の開発を行なう。とりわけ炭素系膜のCVDプロセスでは煤堆積に装置汚染が深刻な問題となっているので、高品質グラフェン横配線形成、ビアとの低接触抵抗、グラフェン低温成長だけでなく、煤掃除なしのプロセスを可能とする光電子制御プラズマCVDプロセスを、光電子制御プラズマ生成の知見に基づいて開発する。関連する特許(特願2002-201148)は既に申請している。




(E) チタニウムなどの遷移金属表面の酸化反応機構の解明と表面機能制御


 チタニウム及び鉄などの遷移金属表面の酸化過程をリアルタイム光電子分光で「その場」観察して内殻準位の化学シフトから酸化状態の時間発展を解析し、さらには表面構造・形態と化学組成のリアルタイムモニタリングから酸化反応機構を解明する。とりわけ遷移金属酸化物は結晶性なので、遷移金属表面酸化による極薄酸化膜形成の反応モデルを化学組成だけでなく結晶性にも着目して構築する。
 チタニウム表面の酸化反応機構の知見に基づいてチタニウム構造体の表面酸化によりチタニア(TiO2)層をエピタキシャル成長させ、さらにその上に金属ナノ粒子もしくは薄膜を形成した金属/絶縁体/金属からなる多層膜の表面機能制御技術を開発し、光触媒や生体親和表面、さらには電子デバイスなどへの展開を図る。




(F) 固体表面エッチング機構の解明と原子スケール制御エッチングプロセスの開発


 塩素などのハロゲンガスによる固体表面のエッチング過程について、エッチングが進行する表面状態と表面からの脱離種を一緒にリアルタイムモニタリングすることにより、両者の相関からエッチング機構を明らかにする。とりわけ、表面状態としてハロゲンの吸着状態だけでなく表面構造と形態も一緒に観察することにより、エッチングの反応経路とその結果生ずる表面平坦性及び結晶面の関係を解明する。
 固体表面のエッチング機構の知見に基づいて、光・半導体デバイスだけでなくマイクロマシーンやMEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 、そしてLab on tipなどで必要とされる低損傷で原子スケール制御のエッチングプロセスのために、高エネルギー粒子や紫外線による損傷をともなわないハロゲンラジカル生成技術と組み合わせて、平坦表面をもたらすハロゲン脱離過程の制御技術を開発する。




(G) 薄膜形成過程における結晶欠陥の発生機構の解明と制御


 気相成長の表面反応律速領域でのエピタキシャル成長でみられる積層欠陥と転移について、塩素や水素などの表面吸着種の吸着状態や被覆率を「その場」観察により調べ、結晶欠陥の発生密度との相関を明らかにし、薄膜のエピタキシャル成長機構の知見と組み合わせることで結晶欠陥の発生機構を解明する。そして、理論計算との協力により、薄膜成長にともなう結晶欠陥の発達の微視的モデルを構築する。
 また、SiC、ダイヤモンド、SiO2などのワイドバンドギャップ材料薄膜の欠陥準位を「その場」観察するために、光電子分光やオージェ電子分光のための計測プローブの紫外線や電子により励起されるフォトルミネッセンスやカソードルミネッセンスを開発する。これにより薄膜成長中に化学組成、表面構造・形態と一緒に欠陥準位をリアルタイムモニタリングすることを可能とし、薄膜成長機構と関連づけて欠陥準位の挙動の解明をする。




(H) 高輝度放射光を用いたリアルタイム表面計測法の開発


 固体表面動的過程における表面構造・形態、化学組成・結合状態、そして電子状態の全てを同時にリアルタイムモニタリング可能とするために、電子蓄積リングからの高輝度放射光(Photon Factory, SPring-8)を用いたリアルタイム光電子分光と、マクロ電子ビームを用いた反射高速電子回折を複合化させた表面解析手法を開発する。高速(約0.1秒)での光電子分光を可能とするだけでなく、反応性ガス雰囲気に対応した電子銃や電子エネルギー分析器を開発することにより、多様なプロセスにおける固体表面動的過程の「その場」観察を可能とする。



 以上の課題の中で、とりわけSiO2膜、ダイヤモンド膜(グラフェン膜)、TiO2膜形成を中心課題として、現在研究を進めている(下図参照)。



リアルタイム表面計測法と研究対象



現在進められている課題の相互関係は次のようになり、半導体集積回路の極限化のための基礎研究と要素技術開発を目的としたものである。














現在進めている研究プロジェクトなど



(a) 物質・デバイス領域共同研究拠点
物質・デバイス領域共同研究拠点は、日本列島を縦断する5つの研究所(北海道大学電子科学研究所、東北大学多元物質科学研究所、東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所(旧資源化学研究所)、大阪大学産業科学研究所、九州大学先導物質化学研究所)が参画する全国規模のネットワーク型の共同研究拠点として、平成22年度に発足しました。
本拠点における事業は、「ネットワーク型共同研究拠点事業」と拠点を形成する附置研究所間で推進する「課題解決型アライアンスプロジェクト事業」から成り立っています。
「ネットワーク型共同研究拠点事業」では、5つの研究領域(ナノシステム科学、物質創製開発、物質組織化学、ナノサイエンス・デバイス、物質機能化学)を研究所間ネットワークで結合した「物質・デバイス領域」の公募による共同研究システムを整備し、平成27年度には、公募による53件の一般共同研究が実施されました。さらに若手研究者を研究チームのリーダーとして抜擢する長期滞在型の共同研究であるCOREラボを特定共同研究の枠で公募し、7件の研究チームを採択し、共同研究が研究所横断的に強力に推進されました。これらのネットワークの特性を活かした組織的共同研究の取り組みは、我が国の物質・デバイス研究の飛躍的推進を担う核として有効に機能することが大いに期待されています。

研究代表者:堀尾吉已
研究課題:RHEED励起オージェ電子分光法の開発と応用

研究代表者:山田貴壽
研究課題:グラフェンデバイスに向けた界面電子物性制御

研究代表者:石塚眞治
研究課題:酸化グラフェンの熱処理過程における酸素系官能基の挙動の解明

研究代表者:吉越章隆
研究課題:表面反応の動的現象の解明に向けたリアルタイム観察技術の研究

(b) 科学研究費補助金・若手研究A (代表:小川修一)
研究課題:酸化膜で囲まれたシリセン –酸化反応自己停止と酸化誘起歪みを用いた作製方法の開発(平成28年度〜)

科学研究費補助金・新学術領域 (代表:小川修一)
研究課題:原子層スタック型電界放射電子放出デバイス –放出機構解明と放出量増加への挑戦(平成28年度〜)

科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究 (代表:小川修一)
研究課題:ダイヤモンド表面を原子レベルに平坦化するイオンアシスト表面拡散研磨(平成28年度〜)

(c) 東北発素材技術先導プロジェクト 超低摩擦技術領域 (分担:高桑雄二)
http://www.tohoku-timt.net/tribology/

(d) 池谷科学技術振興財団 助成金 (代表:小川修一)
研究課題:ダイヤモンド表面を平坦化/活性化するイオンアシスト表面拡散研磨法の開発(平成28年度)

(e) 多元プロジェクト(代表:高桑雄二)
研究課題:非熱平衡状態の表面構造と反応性 -熱歪みを用いた新規反応場の創出

終了したプロジェクト(2000年以降)


平成26年度:
科学研究費補助金・若手研究B(代表:小川修一)
研究課題:ダメージレス・低コストな転写を目指す金属触媒酸化を介したグラフェン剥離プロセス (平成25年~平成26年度)
平成25年度:
科学研究費補助金・萌芽的研究支援課題(代表:高桑雄二)
研究課題:原子スケールで平坦な表面を達成するプラズマ研磨プロセスの検証(平成24年~平成25年)
平成25年度:
最先端研究開発支援プログラム(内閣府)(代表:横山直樹)
研究課題:グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発(平成23年~平成25年)
上記課題の共同研究者として参加しています。
平成24年度:
公益財団法人マツダ財団マツダ研究助成(代表:小川修一)
研究課題:黒鉛の光核反応を用いたホウ素ドープ高品質グラフェン作製プロセスの研究(平成23年~平成24年)
平成24年度:
研究代表者:中村 淳
研究課題:酸化・還元処理を施したグラフェンの局所原子配列と電子状態(平成23年~平成24年)
平成23年度:
多元プロジェクト研究(研究代表者:高桑 雄二)
研究課題:光電子制御イオン源によるドライ研磨の研
平成23年度:
物質・デバイス領域共同研究拠点
研究代表者:石塚 眞治
研究課題:酸化黒鉛の熱的還元過程における官能基の動的変化

平成21年度~平成22年度:
ものづくり中小企業製品開発等支援事業補助金(全国中小企業団体中央会) (代表:株式会社ムサシノエンジニアリング)
研究課題:電子部品、デバイスのストレスレス常温気密封止を行う為の試作開発

平成19年度~平成20年度:
科学研究費補助金・特別研究員奨励費(代表:小川修一)
研究課題:歪み誘起熱酸化プロセスを用いたシリコン極薄酸化膜形成過程の解明

平成16年度~平成17年度:
科学研究補助金・基盤研究 (B)(代表:高桑雄二)
研究課題:格子歪み制御されたSi表面での熱酸化反応ダイナミクスの研究

平成16年度:
経済産業省・創造技術研究開発事業 (中小企業が行う研究開発への補助により、中小企業の技術開発の促進を目的とした事業) (東北大学/東邦化研株式会社との共同研究)
研究課題:光合成技術を用いた大面積基板上へのダイヤモンド薄膜の合成

平成15年度:
科学技術振興事業団・研究成果最適移転事業・成果育成プログラムB (独創モデル化) (大学で開発された技術や特許の民間への移転を目的とした事業) (東北大学/東邦化研株式会社との共同研究)
研究課題:大面積ダイヤモンド薄膜の光合成技術の開発

平成12年度~平成13年度:
科学研究補助金・基盤研究 (C)(代表:高桑雄二)
研究課題:Si熱酸化過程のRHEED-AES-CL法による「その場」観察

平成17年度~平成21年度
科学技術振興機構/戦略的創造研究推進事業(JST CREST)
領域「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
研究課題:バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発
研究代表:東北大学大学院理学研究科教授・高橋隆

平成19年度~平成21年度
科学技術振興機構/戦略的創造研究推進事業(JST CREST)2007年10月より
領域「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」
研究課題:次世代LSI用3次元カーボン・アクティブ配線
研究代表:富士通株式会社・二瓶瑞久





これまでに得られた研究成果の概要






(A) Si薄膜の結晶欠陥発生機構の解明


 ジシラン(SiH2Cl2)を用いたCVDによるSiエピタキシャル成長において発生する積層欠陥と転位を、化学エッチングなしでピラミッド状丘を用いて識別する観察法を開発した。SiH2Cl2から解離吸着した塩素が結晶欠陥の核発生に関与しており、積層欠陥と転位はそれぞれ表面塩素被覆率の二次と一次反応であることを明らかにした。これに基づいて表面からの塩素除去により結晶欠陥を減少できることに着目し、実際に紫外線励起キャリア水素ガスを用いることで積層欠陥と転位をともに顕著に抑制できることを見いだした。



Si(111)表面形態の基板オフ角度依存:CVD成長表面とエッチング表面




ピラミッド状丘を用いた結晶欠陥の観察




ピラミッド状丘の頂上形態と結晶欠陥の種類の関係



関連論文の要旨

論文題目:Growth defect observation with pyramidal hillock and reduction by photoexcited hydrogen in Si CVD with SiH2Cl2
著者:Y. Takakuwa, M.K. Mazumder and N. Miyamoto
掲載誌:Journal of the Electrochemical Society 141 (9) (1994), 2567-2572.

[背景] 気相成長 (Chemical Vapor Deposition: CVD) によるSi薄膜のエピタキシャル成長技術は、Siデバイス作製のための基盤プロセスの一つである。 その重要性のために1950年代後半から、Si気相機構成長について広範な研究が展開されてきた。 デバイス集積が超高密度化するにつれ不純物ドーピング形状の熱拡散によるダレを防ぐために成長温度の低減が強く求められ、 それに伴って生じる結晶欠陥の発生機構の解明と抑制技術の開発が必要とされていた。 一般に結晶欠陥(積層欠陥、転位)は化学エッチング後に現れるエッチピットを用いて観察されている。 しかし、エッチピットの大きさはSi薄膜の厚さに比例するために、極薄膜ではエッチピットが極めて小さく観察が困難になり、 高倍率の走査電子顕微鏡などで観察すると単位面積当たりのエッチピット密度を求めるときにバラツキが大きくなり、結晶欠陥発生過程の定量的解析を困難としていた。


[成果] そのため本論文では結晶欠陥の観察手法としてピラミッド状丘に着目し、基板表面のオフ角度やCVD条件への発生密度の依存や、 化学エッチングによるエッチピットの有無とその形状から、ピラミッド状丘が結晶欠陥を成長核として発生することを解明した。 その結果、ピラミッド状丘の頂上の表面形態に対応して積層欠陥と転位の存在を化学エッチング無しで識別できるだけでなく、 その大きさがエッチピットよりも10000倍以上も大きいので低倍率の光学顕微鏡を用いて広い視野で観察可能なために、低い発生密度に対しても高い信頼性で定量評価が可能なことを示した。 そして、酸化物などの汚染物の存在もピラミッド状丘を用いて検出可能であることを明らかにした。また、紫外線で励起した水素キャリアガスを用いることで酸化物などの表面汚染物が清浄化できるだけでなく、積層欠陥や転位の発生も抑制できることを見いだした(図1)。これらのことに基づいて結晶欠陥発生機構を検討し、原料ガスのジクロロシラン(SiH2Cl2)の解離吸着で生じた表面塩素が積層欠陥と転位の発生に関与していることを指摘した(図2)。









[展開] この研究と関連して、光励起水素キャリアガスを用いることで成長欠陥の抑制だけでなく表面形態の平坦化と成長速度の増加が可能なこと、成長欠陥発生のCVD条件への系統的依存、ピラミッド状丘とエッチピットの結晶学的相関、表面吸着した塩素による積層欠陥と転位の発生機構などの研究をこれまで進めてきました。






(B) Si熱酸化プロセスの統合反応モデルの構築


 Si表面と酸素の反応による酸化膜(SiO2)成長は吸着酸素の拡散と界面反応で支配されるとするこれまでの考え方と異なり、酸化膜成長にともなう堆積膨張による界面歪みによって生じる点欠陥(空孔+放出Si原子)と酸素の反応がSi酸化の本質であることを明らかにした。この統合反応モデルは酸化膜成長だけでなく構造欠陥の挙動も統合的に説明できるだけでなく、ナノSi構造体の酸化で見られる特異な現象にも摘要できることを示した。



点欠陥発生を介した統合Si酸化反応モデル:点欠陥が「触媒の役割」




極薄SiO2膜形成・分解の界面反応への統合Si酸化反応モデルの適用



関連論文の要旨

論文題目:Thermal oxidation mechanism based on formation and diffusion of volatile SiO molecules
著者:Y. Takakuwa, M. Nihei, T. Horie and N. Miyamoto
掲載誌:Journal of Non-Crystalline Solids 179 (1994), 345-353.

[背景] Si熱酸化プロセスはプレーナーテクノロジーの一環として重要なだけでなく、MOSFET (Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor) デバイスの ゲート絶縁膜形成において現在のところ他に代替のできない必要不可欠なものとなっている。これまでSi熱酸化プロセスは1965年にB. E. DealとA. S. Groveにより提案された反応モデルを 用いて解析と制御がなされてきたが、数十nm以下の酸化膜に対してはこのDeal-Groveモデルは最早有効ではなくなり、 経験則に基づくプロセスシュミレーションが行われているのが現状である。 しかし、今後必要とされる数nm以下の高品質極薄酸化膜の実現のためには、Si熱酸化プロセスの基本的理解に基づく反応モデルの構築が重要である。 なぜなら、極薄膜形成では厚さだけでなく構造欠陥の精密制御が共に求められるだけでなく、その過程において多様な現象が見られるために、 それらを統合的かつ相補的に理解することなしにプロセス制御することが困難になるからである。


[成果] これに対して本研究では角度分解X光電子分光 (angle-resolved XPS) と時間分解紫外線光電子分光 (time-resolvedUPS) を用いて酸化膜の形成過程と 分解過程を「その場」観察で調べることにより、酸化膜とSi基板の界面において熱分解反応による揮発性分子SiOの生成が顕著に行われており、 それが濃度勾配に従って酸化膜中を表面に向かって拡散することを実験的に検証し、酸素がないときにはSiO分子は表面から脱離し、 酸素雰囲気では酸化膜中で酸素とSiOの会合による酸化反応が生じることを明らかにした。 これまでのDeal-Groveモデルでは酸素は界面でSi基板と反応するだけと考えられていたが、それに加え界面では逆反応の酸化膜分解と、 生成したSiO分子の酸化膜中での酸化が重要であることを指摘した(図1)。 これらの実験結果に基づいてSi熱酸化反応の進行を支配しているのは酸化膜形成による体積膨張がもたらす点欠陥生成(空孔+放出Si原子)であり、 Si熱酸化プロセスとは基本的にこの点欠陥と酸素分子との反応であるとする『統合反応モデル』を提案した(図2)。 なぜなら空孔と放出Si原子の両者が高い反応性をもつためであり、具体的にこの統合反応モデルでは界面での酸化反応は空孔により、分解反応は放出Si原子により促進される。 この反応モデルを用いることにより、酸素同位体18O216O2を用いた二段階酸化実験における酸化膜中の18Oの 深さ分布の測定結果をよく説明できることを示した。







[展開] この研究と関連して、SiO2/Si界面に分布する構造欠陥の酸化プロセス条件や基板表面のオフ角度への依存、酸化膜中でのSiO分子の拡散と酸化過程、Si表面での極薄酸化膜の成長と分解の動的過程、初期酸化における極薄酸化膜形成とエッチングとの競合過程と表面形態などの研究をこれまで進めてきた。






(C) GSMBEによるSiエピタキシャル成長機構の解明


 ジシラン(Si2H6)を用いたGSMBE中にSi成長速度、表面水素被覆率、水素吸着状態を一緒にリアルタイムモニタリングする手法を開発し、成長条件への依存を系統的かつ効率良く測定することを可能とした。それらの相関に基づいてSiエピタキシャル成長機構を解明した。とりわけ、水素吸着状態の知見は水素脱離過程だけでな、Si2H6の解離吸着過程の解明のためにも重要であることを明らかにした。



気相成長中のSi(001)表面の光電子スペクトル:水素吸着状態





気相成長中のSi(001)表面の光電子スペクトル:光電子強度振動





UPSによる成長速度と水素被覆率の同時測定


関連論文の要旨

論文題目:In situ observation of the surface reaction during synchrotron-radiation assisted gas source molecular beam epitaxy of silicon
著者:Y. Takakuwa, Y. Enta and N. Miyamoto
掲載誌:Optoelectronics -Devices and Technologies- 11 (1) (1996), 3-22

[背景] ガスソース分子線エピタキシー (Gas Source Molecular Beam Epitaxy: GSMBE) は低温で高品質の薄膜成長を可能とするだけでなく、とりわけ原子スケールで成長制御できるために、電子・光デバイスのプロセスとして重要である。このような薄膜成長の精密制御を実現するためにはGSMBE成長機構の解明が必要とされ、広範囲の研究がなされているが、多くはGSMBEプロセスが終了してからの評価・解析に基づくものである。しかし、GSMBEでは気相反応は無視でき表面反応で支配されるために表面反応ダイナミクスの知見が不可欠とされるが、プロセス終了後の解析による研究は多くの推測を含むものであった。


[成果] そのために本論文では放射光を用いた紫外線光電子分光 (Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy: UPS) でGSMBE成長中のSi表面を「その場」観察する手法を開発し、表面水素の吸着状態と被覆率に加えSi成長速度も一緒に測定できることを明らかにした(上の概要説明図)。この手法ではリアルタイムモニタリングでそれぞれの情報が得られるために、広範囲のGSMBE条件について効率的に調べられる。その結果、低温での成長速度の低下は水素被覆率の増加による原料ガスのジシラン(Si2H6)吸着の阻害が原因であり、温度に依存して水素吸着状態が変化することに対応して水素被覆率が変化することを見いだした。したがって低温での成長速度の促進のためには表面水素の非熱的脱離が必要とされるが、そのための手法として紫外線照射を行うときに、表面からの水素除去効率が最大になるように選択された光エネルギーと偏光をもつ単色紫外線が本手法のリアルタイムUPSの光源として使用できることを示した。その結果、観測プローブによる外乱と表面反応領域との位置合わせなしで、GSMBEの光励起効率と表面反応機構を解明できることを示した(図1)。白色の放射光による表面反応励起のときには、Si LVVオージェ電子を用いて同様に表面状態を「その場」観察できることを報告した(図2)。






[展開] この研究と関連して、GSMBEによるSiエピタキシャル成長中の光電子分光強度の周期的振動の世界で最初の発見、GSMBEと固体ソース分子線エピタキシー (Solid Source Molecular Beam Epitaxy: SSMBE) の比較から光電子分光強度振動の原因が表面平坦性や水素被覆率の周期的変化ではなく、layer-by-layer成長による2x1表面構造の周期的変化であることの解明、Si薄膜成長モニターとしての光電子分光強度振動の有効性などの研究をこれまで進めてきた。







(D) 光励起表面反応の基礎過程の解明


 真空紫外領域の放射光照射によるSi表面からの吸着水素の光刺激脱離について、H+イオンの脱離収量と一緒に脱離後の水素吸着状態と水素被覆率を「その場」観察することにより、水素除去効率の光照射条件(エネルギー、偏光)と水素吸着状態への依存を測定し、光励起水素脱離の反応経路を解明した。これに基づいて水素終端Si表面の低温清浄化とGSMBEによるSi薄膜成長の低温化の基礎過程を明らかにした。



四重極質量分析器を用いたPSD測定システムの構成と特徴




水素終端Si(111)表面から光励起水素脱離の光照射条件依存



関連論文の要旨

論文題目:In situ observation of photon-stimulated hydrogen removal on a HF-passivated Si(111) surface by ultraviolet photoelectron spectroscopy using synchrotron radiation
著者:Y. Takakuwa, M. Nogawa, H. Ishida, M. Niwano, H. Kato and N. Miyamoto
掲載誌:Japanese Journal of Applied Physics 36 (12B) (1997), 7699-7705.

[背景] 半導体デバイスの超高密度集積化にともない不純物ドーピングプロファイルの拡散によるダレを防ぐために、全てのプロセスにおいて反応温度の低温化が 強く求められている。そのため低温でも高い反応効率をもつマイクロ波や高周波によるラジカル生成が取上げられ、多くの目的のためにプラズマプロセスが生産現場で用いられている。 しかし、集積回路の高信頼性と高い歩留まりを実現するためには、プラズマに含まれる高エネルギー粒子などによる損傷が問題となっている。 この問題を解決する手法の一つとして、真空紫外線から軟X線のエネルギー領域の放射光を用いて表面反応や気相反応を励起する光プロセスが注目されている。 この光プロセスでは低温、低損傷だけでなく、光エネルギーを調節することにより反応の選択励起が期待されている。 それらを実現するためには光励起効率や光励起反応素過程の解明が必要とされるが、それまでの研究のほとんどは光照射効果の有無を調べたものであった。


[成果] これに対して本研究では固体表面反応の光励起用の放射光をプローブとする紫外線光電子分光 (Ultraviolet PhotoelectronSpectroscopy: UPS) を用いて 光照射表面を「その場」観察することにより、光励起効率や光励起反応素過程を外乱なしに効率良く解析できることを明らかにした。 具体的には水素終端Si(111)表面の室温での光励起清浄化プロセスについて、光励起水素除去効率が最も高い照射条件(光エネルギー:23eV, 入射角度:45o) の放射光を用いたUPSにより水素吸着状態として主にSi-H3で表面が覆われており、わずかにSi-HとSi-H2が含まれることが明らかにされた(図1)。 UPSスペクトルの光照射時間による変化から、Si-H3から水素原子が光励起で一個ずつ除去されて、Si-H3→Si-H2→Si-H→Siのように 光励起水素除去が進行することが分かった(図2)。 そして光励起除去効率αは水素吸着状態に強く依存し、α(Si-H)>α(Si-H2)>α(Si-H3)であることを見いだした。 このように光励起固体表面反応の放射光をプローブとすることで表面計測プローブと光照射領域との位置合わせは不要となり、 さらに表面計測プローブとして電子やイオンを用いたときに見られるプローブビーム誘起効果などによる外乱を全くなしで、光励起表面反応過程をリアルタイムモニタリングできることを示した。






[展開] この研究に関連して、水素終端Si表面の紫外線照射による低温清浄化、Si表面のSiO2膜の光励起除去の反応過程、光励起反応による高密度SiO2薄膜形成、硫化アンモニウム処理したGaAs表面の光照射低温清浄化、水素ラジカル照射により化学結合状態を変化させたSiO2膜の光励起除去プロセス、光刺激脱離イオンの飛行時間質量分析器の開発などの研究をこれまで進めてきた。







(E) Siエッチングの表面反応素過程の解明


 塩素によるSi表面エッチングにおける表面塩素被覆率のリアルモニタリングにより、塩素脱離の反応次数、反応係数、エネルギー障壁を求め、表面拡散しているSi吸着原子がエッチング反応に関与していることを明らかにした。また、この研究で明らかにされた吸着塩素の挙動に基づいて、(A)で述べた積層欠陥の核発生過程においてSiダングリングボンドを終端した塩素による立体障害が重要な役割を担っていることを明らかにした。



Si(001)表面でのSiH2Cl2吸着/塩素脱離過程と塩素脱離モデル


関連論文の要旨

論文題目:In situ observation of a high-temperature Si(001) surface during SiH2Cl2 exposure by photoelectron spectroscopy
著者:T. Hori, H. Sakamoto, Y. Takakuwa, Y. Enta, H. Kato and N. Miyamoto
掲載誌:Thin Solid Films 343-344 (1999), 354-360.

[背景] 化学気相堆積プロセス (Chemical Vapor Deposition: CVD) によるSi薄膜成長は液晶ディスプレイの薄膜トランジスター、太陽電池パネル、エピタキシャル・ウエハーなどの製作において、重要な役割を担っている。その原料ガスとして成長温度の低温化のためにシラン (SiH4) やジシラン (Si2H6) が用いられているが、爆発に対する安全性やガス供給システムの設計・制御の容易さからジクロロシラン (SiH2Cl2) がSi CVDのために広く用いられている。大面積での均一成長を実現するだけでなく、より低温で原子スケールでの結晶成長の制御を可能とするために、SiH2Cl2を用いたCVDにおけるSi気相成長機構の解明が必要とされている。とりわけ、低温CVDでは表面吸着種によるSiH2Cl2吸着の阻害が成長速度の律速反応となるために、解離吸着で生じた種類とその被覆率の知見が重要である。


[成果] これに対して本研究ではSi(001)2x1表面でのSiH2Cl2分子の吸着過程と水素・塩素の脱離過程を明らかにするために、希ガス放電管と放射光を用いた光電子分光で価電子帯とSi 2p内殻準位を「その場」観察することにより表面吸着種を同定し、その被覆率の温度依存を調べた(図1)。水素と塩素の吸着種として、Si monohydride (Si-H) とSi monochloride (Si-Cl) だけが観察され、他の吸着状態はほとんど存在しないことから、室温から800℃の範囲でSiH2Cl2は完全解離吸着することが分かった。さらには反射高速電子回折による観察から2x1構造が全ての温度で保たれ、吸着したSi原子が再配列してダイマー構造となっていることを明らかにした。室温では脱離が全くないために水素と塩素の被覆率は同じ0.5 ML (monolayer) である。温度上昇により水素被覆率は単調に減少するが、塩素被覆率は400℃まで増加してから減少し、700℃以上で両者の吸着はないことを観察した(図2)。これらの実験結果に基づいてSiH2Cl2吸着の表面反応モデルを提案し、400℃まではH2とHCl脱離が、より高温ではそれらに加えてSiClとSiCl2の脱離が顕著になることを示した。






[展開] この研究に関連して、Si(001)表面からの塩素脱離の反応次数と活性化エネルギーの決定とSiCl脱離によるエッチングに対する表面反応モデルの提案、Si(001)表面へのSiH2Cl2吸着における反応次数の解析から関連する吸着サイトの決定と表面反応モデルの提案、Si(001)表面でのSi2H6や酸素吸着とSiH2Cl2吸着の比較による表面反応における表面構造の役割の検討などの研究をこれまで進めてきた。







(F) β-SiC核発生機構とヘテロ成長過程の解明


 エチレン(C2H4)によるSi(001)表面の炭化反応過程について、吸着炭素の格子位置の決定と、表面構造・形態と表面炭素被覆率のリアルタイムモニタリングに基づいて、β-SiC核発生の時間遅れは吸着炭素の拡散が原因であり、限られた表面層での炭素拡散が固溶限度に達するとβ-SiC核発生が始まることを解明した。時間遅れの温度依存と基板表面のオフ角度依存から、β-SiC核発生と成長にSi吸着原子が関与していることを示した。



炭化Si(001)表面のC 1s光電子回折と吸着炭素の格子位置モデル




Si(001)表面の炭化反応モデル:3C-SiCの核発生と表面形態


関連論文の要旨

論文題目:Real-time monitoring of Si carbonization process by a combined method of reflection high-energy electron diffraction and Auger electron spectroscopy
著者:R. Kosugi, Y. Takakuwa, K. S. Kim, T. Abukawa and S. Kono
掲載誌:Applied Physics Letters 74 (26) (1999), 3939-3941.


[背景] シリコンカーバード(SiC)はエネルギーバンドギャップが2.2-2.86 eVあるので、高温で動作する半導体デバイスとして開発が進められている。ところが大口径のSiCウェハーが得られないために、Siウェハーを基板として用いるSiC薄膜ヘテロ成長の研究が必要とされている。このとき成長する薄膜は立方晶のβ-SiCである。β-SiC/Siヘテロ成長の研究ではSi表面でのβ-SiC核発生過程の解明と制御が重要かつ不可欠とされる。β-SiC核発生においてはSi表面に比べて結晶構造と格子定数が大きく変化するだけでなく、化学組成も一緒に変化する。それにもかかわらず表面構造は電子回折やX線回折などで、表面組成はX線光電子分光などで別々に調べられ、両者の同時観察に基づくβ-SiC核発生の統合的な研究は行なわれていなかった。


[成果] これに対して本論文では反射高速電子回折(Reflection High-Energy Electron Diffraction: RHEED)とオージェ電子分光(Auger Electron Spectroscopy: AES)を組み合わせた複合表面解析法(RHEED-AES)を用いて表面組成と表面構造を一緒にリアルタイムモニタリングすることにより、エチレン(C2H4)を用いたSi(001)表面でのβ-SiC核発生と成長過程を調べた。RHEED観察で見られるβ-SiC核発生の時間遅れ(incubation time)においてもC2H4暴露量に対応して炭素が表面に吸着していることをO KLLオージェ電子強度から明らかにした(図1)。このような吸着炭素が表面近傍に固溶濃度の限界を超えて存在しており、その原因は理論計算から指摘されたようにSi(001)2x1表面のダイマー形成を伴う再配列による歪みであることを示した。そして炭素固溶濃度の増加は表面数層に限られるために、これらの限られた表面層において拡散した炭素が固溶濃度の限界に達するとβ-SiC核発生が始まることを解明した。つまり、β-SiC核発生の時間遅れとは吸着炭素の表面近傍での拡散が原因であることを示した。そして、基板温度に依存して時間遅れが短くなるのを観察し、その原因としてβ-SiC核発生に表面拡散しているSi吸着原子が関与しているためであることを明らかにした(図2)。また、成長したβ-SiC薄膜の表面形態が温度と共に著しく荒れることを観察し、Si吸着原子の表面拡散を用いて説明した。このようにβ-SiC/Siヘテロ成長の核発生機構の研究では、表面構造と表面組成を一緒にリアルタイムモニタリングすることの重要性を指摘した。






[展開] この研究に関連して、X線光電子回折によるC2H4吸着Si(001)表面における吸着炭素の格子位置と濃度の解析、放射光を用いた表面敏感光電子回折によるC2H4吸着Si(001)表面において表面に留まっている吸着炭素の配列構造の解析などの研究をこれまで進めてきた。







(G) ダイヤモンドGSMBEの気相成長機構の解明


 ダイヤモンド気相成長中の表面状態を「その場」観察し、CVD中のダイヤモンド表面が負の電子親和力をもち高効率の電子放出源として機能できることを解明し、それに基づいてダイヤモンド気相合成法を提案した。また、GSMBEの表面反応の解析と第一原理計算に基づいてダイヤモンド気相成長機構における表面水素の挙動を明らかにし、燐を不純物ドーピングすることによりn型ダイヤモンドのエピタキシャル成長を実現した。



水素終端ダイヤモンド表面の負性電子親和力とp型表面電気伝導




水素終端ダイヤモンドC(001)の真空中加熱と水素の吸着モデル



関連論文の要旨

◎ ダイヤモンドCVDの実験的研究として、三菱重工株式会社・基盤技術研究所/西森年彦氏との共同研究成果

論文題目:n-type high-conductive epitaxial diamond film by gas source molecular beam epitaxy with methane and tri-n-butylphosphine
著者:T. Nishimori, K. Nakano, H. Sakamoto, Y. Takakuwa, and S. Kono
掲載誌:Applied Physics Letters 71 (7) (1997), 945-947.


[背景] 1980年代のはじめに科学技術庁無機材質研究所などの研究グループからダイヤモンド薄膜の気相合成が発表されて以来、その成長機構の解明と実用プロセスの開発について多くの研究が展開されてきたが、現在産業利用されている年間5-6億カラットの人工ダイヤモンドのほとんどは高圧・高温合成によるもので、気相合成によるものは表面弾性波デバイスなどの限られた分野でしか利用されていない。その理由は気相合成においてダイヤモンド成長速度が遅いわりにエネルギー消費が大きく不経済なことに加え、光・電子デバイスやセンサーなどの利用のために必要とされるp型の電気伝導度は水素吸着やホウ素ドーピングにより実現できるのだが、一方のn型で高い電気伝導度を持つダイヤモンド薄膜を作ることができなかったためである。これらの問題を解決するためにはダイヤモンド気相合成機構や不純物ドーピング機構の解明が必要とされるが、これまでの気相合成プロセスの多くでは0.01-0.1気圧の水素希釈した炭化水素を原料として、マイクロ波や直流放電などを用いてラジカル生成しダイヤモンド成長を行っているために、それらの機構を直接支配するダイヤモンド表面での反応過程を観察することは困難であった。


[成果] これに対して本研究では気相反応が無視でき表面反応のみでダイヤモンド成長過程が支配されるガスソース分子線エピタキシー (Gas Source Molecular Beam Epitaxy: GSMBE) を用いて、高温高圧合成によるホウ素をドーピングしたp型ダイヤモンド単結晶表面を基板として、燐 (tri-n-butylphosphine) を不純物ドーピングしながらダイヤモンド薄膜をエピタキシャル成長させた。これにより世界で初めて、全て単結晶ダイヤモンドからなるpn接合ダイオードを実現した。ホール測定からn型電気伝導が確認され、400oCでのキャリア濃度は1.6×1018 cm-1と求められ、室温での電気伝導度0.33Ω-1cm-1はそれまでの報告の中で最も高いものであった(図1)。二次イオン質量分析から求められた燐濃度はキャリア濃度と同程度であり、ドープされた燐原子のほとんどが電気的に活性であることが示唆された。また、pn接合ダイオードの電流電圧特性において、10 Vでの順方向と逆方向の電流比が約1000倍の高い整流特性が得られた(図2)。GSMBEではダイヤモンド成長速度が大変に遅いのだが、このようにダイヤモンド薄膜のエピタキシャル成長とn型不純物ドーピングではこれまでの手法と比べて大変に優れていることが示された。






[展開] この研究に関連して、GSMBEによるダイヤモンド薄膜の結晶性と組成の評価、メタン吸着と水素脱離の表面反応とダイヤモンドGSMBE成長の律速反応、電子照射と水素原子照射によるダイヤモンドGSMBE成長の促進効果、n型ダイヤモンド薄膜成長とpn接合ダイオードからの発光特性などの研究をこれまで進めてきた。



◎ ダイヤモンドCVDの理論的研究として、東京理科大学理学部/渡辺一之教授との共同研究成果

論文題目:Ab initio calculations on etching of graphite and diamond surfaces by atomic hydrogen
著者:C. Kanai, K. Watanabe and Y. Takakuwa
掲載誌:Physical Review B63 (23) (2001), 235311-1 - 235311-6.


[背景] ダイヤモンドは硬度などの機械的性質だけでなく、化学的、電気的、光学的、熱的性質が大変に優れているために、広範囲の産業利用が期待されている。既に高温・高圧合成よる人工ダイヤモンドが天然ダイヤモンドと共に大量に産業利用されているが、低温・減圧でのダイヤモンド気相合成は任意の形状の基板表面に薄膜成長できるために多くの期待を集めながらも、まだ、量産技術としては実用化にいたっていない。その理由として、低温・減圧の気相合成ではダイヤモンドだけでなくグラファイトやカーボンナノチューブなどが容易に成長してしまいダイヤモンド薄膜の結晶性が低下してしまうことに加え、メタン(CH4)などの炭化水素ガスからのダイヤモンド結晶への気相合成機構がまだよく理解できていないためと考えられる。ダイヤモンド薄膜の高品質化のためには水素で希釈して炭化水素濃度を1%以下とし、多量の水素ラジカルを表面に供給することで可能であることが経験則から知られている。その理由は水素ラジカルによるエッチング速度がダイヤモンドよりもグラファイトについて著しく速いためであることが明らかにされたが、その反応機構については不明なままとされていた。


[成果] これに対して本論文では第一原理計算によりダイヤモンド表面とグラフファイト表面の水素ラジカルによるエッチング反応過程を研究し、反応経路とエネルギー障壁に基づいて両者のエッチング機構の相違を明らかにした。モノハイドライド(C-H)水素終端したダイヤモンドC(001)2x1表面について、0.55 eVの小さなエネルギー障壁でダイマーボンドへの水素ラジカル吸着が生じダイハイドライド(C-H2)が形成されるが、C-H2のバックボンドへの水素ラジカル吸着のエネルギー障壁は2.37 eVと大きくトリハイドライド(C-H3)は形成され難い(図1)。C-H3からC-H4形成とCH4脱離のエネルギー障壁は1.23 eVで可能であることが分かった。これに対してグラファイト表面ではC-H形成のエネルギー障壁はなく、さらなる水素ラジカル吸着によるC-H2形成の障壁は1.17 eVであるが、その後のCH4脱離にいたる反応過程はエネルギー障壁無しで進行可能なことが示された(図2)。そして、グラファイト面にエッチングにより欠陥が生じると、その後のエッチングは全くエネルギー障壁無しで次々と欠陥の周囲で進行することが明らかにされた。このような反応経路とエネルギー障壁の違いが、ダイヤモンドに比べてグラファイトに対する水素ラジカルによるエッチング速度が著しく大きくなる理由であることを明らかにした。






[展開] この研究に関連して、水素終端ダイヤモンドC(001)2x1表面からの水素脱離のエネルギー障壁の水素吸着状態への依存、水素終端ダイヤモンドC(001)2x1表面からの水素ラジカルによる水素引抜き脱離、水素終端ダイヤモンドC(001)2x1表面近傍での水素の拡散と表面偏析、そして、吸着水素誘起電子状態などについて第一原理計算による研究をこれまで進めてきた。







(H) 高温Si表面での金属原子の挙動の解明


 Si(001)表面からのBi, Sb, Inの熱脱離過程において各金属の表面被覆率と表面構造・形態を一緒にリアルタイムモニタリングし、吸着金属の表面構造の相転移にともなって脱離反応過程が変化すること、脱離反応次数が表面形態に依存することを見いだした。また、Sbを用いたSi表面変性エピタキシー(Surfactant MBE)とSbドーピング(δ-doping)をしたSi薄膜成長について調べ、Sb原子の表面偏析過程と薄膜の結晶性の相関を明らかにした。



Si(001)表面からのSb原子脱離過程のRHEE-AES観察





Si(001)表面からのSb脱離過程のリアルタイム観察と反応モデル


関連論文の要旨

論文題目:RHEED-AES observation of Sb surface segregation during Sb-mediated Si MBE on Si(001)
著者:K.S. Kim, Y. Takakuwa, T. Abukawa and S. Kono
掲載誌:Journal of Crystal Growth 186 (1998), 95-103.


[背景] 固体表面の研究において表面構造、表面形態、化学組成、電子状態などの知見が必要とされ、それらを相補的に組み合わせることで表面現象の理解の深化が図られてきた。実際に用いられている多くの表面解析手法は上記のどれか一つの知見を得ることを目的としており、例えば反射高速電子回折 (Reflection High Energy Electron Diffraction: RHEED) では表面構造を、オージェ電子分光 (Auger Electron Spectroscopy: AES) では化学組成を解析するために使われている。このような表面解析法を用いて順次それぞれの知見を得るやり方は、超高真空下で室温の基板表面ついて長時間にわたって測定するときには問題にならなかったが、今後の材料プロセスの開発で必要とされる表面動的過程の原子スケールでの解明のためには、リアルタイムモニタリングで複数の知見を一緒に得ることが重要となってくる。とりわけ薄膜材料プロセスでは結晶構造と組成の制御が重要なために、表面構造と化学組成を成長速度に関連づけて同時計測することが求められている。


[成果] これに対して本研究ではRHEED観察用の斜入射プローブ電子により励起されるオージェ電子を計測することで表面構造と化学組成を一緒に「その場」観察するRHEED-AES法をSi分子線エピタキシー (Molecular Beam Epitaxy: MBE) に適用し、表面変性エピタキシーのために用いたSb原子の表面析出過程と薄膜の結晶性の関係を調べた。RHEED強度振動からSi成長速度を測定し、Sb MNNオージェ電子強度ISb-MNNのSi薄膜厚さへの依存から最表面のSb被覆率とSb取込み係数を求めた(図1)。その温度依存から低温では取込みが大きくなり、高温では表面からの脱離が活性化されるために~500oCでSb被覆率が最も大きく保たれることを明らかにした。鏡面反射RHEEDスポット強度とISb-MNNの大変によい相関がみられ、Si薄膜の結晶性の低下がSb表面変析もたらすことが直接に示された。このことはSbをδドーピングしたSi固相エピタキシー (Solid Phase Epitaxy: SPE) でのSb表面変析過程でも観察され、Sb取込みによる結晶性の低下と、結晶欠陥を通したSb表面変析が明らかにされた(図2)。






[展開] この研究に関連して、Si(001)表面からのBi脱離過程における表面構造・形態の変化のBi被覆率への依存、Si(001)表面からのSb脱離過程において、Sb被覆率に依存して脱離速度の活性化エネルギーは保存したままで頻度因子が変化することが、Sb吸着構造で見られる島状から二次元ガスへの相転移が原因であることの解明、Si(001)表面からのIn脱離過程がIn被覆率に対して1/2次の反応次数をもつこと、そしてIn脱離後の表面で2x1構造が回復しないことからIn吸着Si(001)4x3構造がInだけでなくSi原子も含んだ再配列であることなどの研究をこれまで進めてきた。







(I) リアルタイム光電子分光の開発


 ドライプロセスの表面動的過程を解明するために、反応性ガス雰囲気下の高温の基板表面を「その場」観察できる光電子分光のための複合表面解析装置を開発した。Si2H6を用いたGSMBEにおいてダングリングボンドに起因する表面電子状態の光電子強度が周期的振動を示すことを見いだし、Si成長速度のリアルタイムモニタリングを可能とした。このリアルタイム光電子分光と(D)光励起表面反応と組み合わせることで、光照射効果を外乱なし評価することを可能とした。



ガスソースMBEによるSi薄膜成長の「その場」観察:問題と対策




ガス・ドーザーの構造と動作特性

関連論文の要旨

論文題目:シリコン気相成長中の表面電子状態
著者:高桑雄二、遠田義晴、坂本仁志、宮本信雄
掲載誌:日本物理学会誌 53 (1998), 758-766.


[背景] これまで表面解析の多くはプロセス終了後に室温まで冷却された試料について、超高真空下で行われてきた。しかし、原子スケールでの表面反応制御による次世代半導体プロセスの開発や、自己組織化などに基づくナノテクノロジーの研究のためには、固体表面での吸着・拡散・脱離・偏析などの反応ダイナミクス(表面動的過程)の解明が不可欠とされる。そのために反応性ガス雰囲気/高温の環境下で行うことができる表面解析法が必要とされ、これまでにRHEED、反射電子顕微鏡などによる表面構造・形態を「その場」観察する手法、XPSやイオン散乱分光による表面組成を「その場」観察する手法が既に開発されている。とりわけ、Si気相成長の「その場」観察法としては、放射光を用いた斜入射X線回折と赤外線吸収・反射分光が高圧力下のガス雰囲気で可能なために有効であるが、前者では水素吸着状態、後者では成長速度の情報をリアルタイム計測することが困難である。


[成果] これに対して本論文では、Si気相成長中の表面電子状態に着目して紫外線光電子分光(Ultraviolet PhotoelectronSpectroscopy: UPS)による固体表面動的過程の 「その場」観察手法を開発し、Si(001)表面でのジシラン(Si2H6)を用いたガスソース分子線エピタキシー(GasSource Molecular Beam Epitaxy: GSMBE)の表面反応ダイナミクスの リアルタイムモニタリングにおいて大変に威力的であることを明らかにした成果を解説したものである。 Si表面でのガス分子の解離吸着はダングリングボンドにおいて生ずるので、反応性ガスを用いるドライプロセスの表面動的過程の研究ではその知見が不可欠とされるが、 これまでの表面構造や表面組成の解析からこの知見を得るのは難しかった。本リアルタイムUPSではダングリングボンドに関連した表面準位を高い表面感度で「その場」観察できることを示した(図1)。 それに加え表面に吸着した水素の化学結合状態を識別してそれらの被覆率を求めることができるので、吸着や脱離反応の解析に有効であることを示した。 このようなダングリングボンドと表面吸着種の被覆率、さらには仕事関数のリアルタイムモニタリングの解析から、GSMBEにおけるlayer-by-layer成長による表面構造と表面電子状態の 変化が、表面準強度と二次電子強度の周期的振動をもたらす機構を明らかにし、この周期的振動を用いて成長速度の測定ができることを述べた(図2)。 このようなSi層状成長中のSi2H6解離吸着反応の表面動的過程は、放射光を用いたリアルタイム光電子分光による「その場」観察により 初めて明らかにできるものであり、Si気相成長中における表面電子状態のリアルタイムモニタリングの重要性を指摘した。






[展開] この研究と関連して、ジシラン(Si2H6)を用いたGSMBE中のダングリングボンドの表面被覆率の成長条件への依存、水素被覆率と水素脱離速度の「その場」観察、Si(001)表面でのジクロロシラン(SiH2Cl2)の吸着状態、塩素脱離過程とエッチング反応、Si(001)表面熱酸化の臨界条件と表面形態などの研究をこれまで進めてきた。







(J) リアルタイムRHEED-AESの開発


 表面構造・形態と表面組成を一緒にリアルタイムモニタリングするために、RHEED観察のための斜入射電子プローブで励起されるオージェ電子を検出するRHEED-AESのための複合表面解析装置を開発した。とりわけ、Si表面の炭化反応や酸化反応では薄膜成長における化学組成の変化と表面構造・形態が密接に関連しているので、本リアルタイムRHEED-AESはその表面動的過程を解明するために大変に有効であることを明らかにした。



RHEED-AESの開発と応用(クリックするとPDFが開きます。)




リアルタイムRHEED-AES用複合表面解析装置の開発




リアルタイムRHEED-AES用の複合表面解析装置:三号機の詳細







(K) RHEED-AES装置の製品化


 リアルタイムRHEED-AESの開発で得られた研究成果に基づく技術指導により、㈱ムサシノエンジニアリングにおいてRHEED用電子銃一式と完全半球型電子エネルギー分析器一式を製品化し、RHEED-AES計測装置として販売された。この製品開発に対して平成13年1月24日に、社団法人中小企業研究センターより「技術開発奨励賞」を受賞した。






静電偏向・集束型RHEED電子銃 と電子エネルギー分析器 (共同開発)






これまで開発した装置の紹介(表紙写真)。