東北大学多元研 高桑研究室 本文へジャンプ

研究目的と教育方針の内容






研究目的と方針



 研究のキーワードを「固体表面動的過程のリアルタイム表面計測法の開発と応用」として、「表面反応機構の理解に基づいた機能性材料創製と表面ナノプロセス開発」を進めています。私(高桑雄二)は表面物理学、放射光科学、材料科学、プロセス工学を専門分野としています。専門分野の特徴を活かして、下図に模式的に示しますように基礎科学のシーズの産業応用への展開と、産業応用のニーズからの基礎科学の研究テーマの発掘が交差する境界領域において、両者の橋渡しを目的とした研究活動を進めることにより、低環境負荷の高度情報化社会の実現に貢献することを研究目的としています。その研究内容は、具体的に(1) 機能性材料創製、(2) 表面ナノプロセス開発、(3) リアルタイム表面計測法の開発、そして、(4) 表面反応機構の解明の4領域に区分されます。







固体表面動的過程のリアルタイム表面計測の開発と応用


(1) 機能性材料創製:
(a) 光触媒などの表面機能制御を目的としたTiO2薄膜:Ti表面酸化による酸化膜厚と酸化状態のナノスケール制御を行い、とりわけ、TiO2膜の表面欠陥(酸化状態)の制御技術の確立。
(b) 集積回路ヒートシンク・ヒートスプレッダ用ダイヤモンド膜:地上で最も高い熱伝導率もつダイヤモンド膜を大面積(8インチ)基板に高速成膜する技術の確立。
(c) 極限化MOSFETデバイスや量子効果デバイスのためのSiO2膜:原子スケールでの酸化膜厚制御と欠陥制御を両立できる成膜技術の確立。
(d) LSI配線用多層グラフェン膜:優れたエレクトロマイグレーション耐性と機械強度などを持つ多層グラフェンを低温で大面積基板に高速成膜する技術の確立。

(2) 表面ナノプロセス開発:
(a) ダイヤモンド成長表面を電子源とする表面局所プラズマ法によるダイヤモンド気相合成プロセス法の技術革新。
(b) Siナノ構造体酸化プロセスの開発。
(c) 集積回路/ダイヤモンド・ヒートスプレッダ/銅ヒートシンクの一貫組立てのための、表面活性化接合プロセスの開発(室温での接着剤を用いない直接接合技術)。
(d) 光電子制御直流放電プラズマを用いた、大面積基板の表面処理プロセス(成膜、クリーニング、平坦化、改質)の開発。

(3) リアルタイム表面計測法の開発:
(a) オージェ電子分光と複合化した反射高速電子回折(RHEED-AES)に、電子刺激脱離-飛行時間質量分析とカソードルミネッセンス(CL)を複合化。
(b) SPring-8の高輝度放射光を用いたリアルタイム光電子分光による高速表面分析。
(c) 高速位置敏感検出器が付属した電子エネルギー分析器を用いた紫外光電子分光により、表面二次元電子状態のエネルギー分散をリアルタイム計測。

(d) 光電子制御プラズマプロセスにおけるプラズマ状態及び基板表面状態の「その場」観察法の開発。

(4) 表面反応機構の解明:
(a) Si表面酸化プロセスの酸化膜形形成と欠陥発生の統合的理解と物理的描像の確立:Si酸化のDeal-Groveモデルの検討。
(b) ダイヤモンド気相合成における表面反応機構の解明。
(c) TiO2表面の光触媒反応機構の解明:とりわけO2とH2Oの解離反応機構の解明によるFujishima-Hashimotoモデルの検討。
(d) Ti表面酸化機構における表面酸化状態の役割の解明:金属酸化のMott-Cabreraモデルの検討。
(e) 紫外線照射による表面局所プラズマ生成機構と諸特性の解明。
(f) Si気相成長機構と成長欠陥発生機構の解明。
(g) 表面二次元電子状態により誘起される表面反応プロセスの解明。
(h) 表面・界面の格子歪みにより誘起される反応気候の解明:弾性変形、異種原子混入、表面再構成、熱膨張係数の差などにより生じる歪みの役割・影響の解明。







教育方針



◎ 基礎科学と先端産業技術の相互関連  
 光・電子デバイスなどの半導体産業と固体物理学の関係によく見られるように、戦後の産業技術は基礎科学とりわけ物理学との深い関わりの中で、驚異的な発展を遂げてきた。他方、産業技術の発展がより精度が高く高速の計測機器の開発や試料の作製を可能とし、物理学及び応用物理学の著しい進展を促してきた。これからの先端産業技術の展開においては、今まで以上に基礎科学の支えを必要としている。他方、応用物理学の新しい鉱脈がこれまでの学問の延長上にあるとは必ずしも限らず、産業現場で抱えている困難や問題の基本的な理解の中において、新しい基礎科学の課題が生まれてくる可能性があり、それを深化させていく過程で応用物理学として新しい分野が切り開かれるだけでなく、産業技術としてブレークスルーとなる斬新なアイデアも生まれるのではないかと考えられる。そのため、大学卒業後にどのような進路を選択しようとも、現代の科学技術を考えるとき両者が密接な関係にあることを認識することが必要であることを、教育の基本方針の一つとする。


◎ 温故知新
 論語の“思いて学ばざれば暗く、学びて思わざれば危うし”の言葉は研究や技術開発に携わるときの基本的な態度であると考えられる。いかに多くの本を読み、論文を調べたところで疑問をもたず、知的好奇心を刺激されなければ知識としての量が増えただけのことであり、それをいくら積み重ねても研究や技術開発のブレークスルーにはならず、逆に、現実の困難な課題を前にして経験則だけで対処するのは無謀なことを示している。そして、研究の始まりは習うこと、真似ることから始まり、その中で矛盾や疑問を感じることから、飛躍が図られるのではないかと思われる。GaNの青色レーザーの開発で見られるように、革新的ブレークスルーと思われることでも、それまで知られていたことのわずかの改良であることが多く、それまでの積み重ねをよく知ることが、斬新なアイデアにつながることがあることを強調する。別の言葉で表現するなら、“温故知新”が適切とも思われる。


◎ 分からないことを分かること
 小学校から大学までの教育では既によく分かったことは教えてくれるが、分からないことはほとんど教えてもらうことはない。そして、卒業研究や大学院の研究テーマでも既に準備されているものに取り組むことが多いために、分からないことを深刻に悩むことがないままに過ぎてしまうことが多いのが現状である。しかし、研究とは基本的には“まだ誰も試みていない”ことや“分からない”ことに挑戦することであり、何が分からないことかをよく分かることが最も必要である。そして、分からないことに対して自分の考えた仮説に基づいて、その検証の準備・実行・解析などの過程が研究であることを強調する。どのような簡単な実験でも仮説を立てて行い、その結果に対する試行錯誤の過程の重要性を指摘する。


◎ 細分化から総合へのパラダイムの転換
 一つの学問分野や産業分野は約30年を周期として、その発展が終息すると一般に言われている。表面科学の分野も1970年代中頃から急速な進展をみせて以来約30年を経過し、簡単な系はほぼやり尽くされてしまい、新しい展開が見られないことや研究が細部にわたっていることに対して閉塞感が漂っているとの指摘がなされている。これまでの30年間の表面科学はより細分化することで急速な発展と高いレベルに到達したことは事実であるが、例えば、Si表面酸化の極めて狭い分野に限っても、一方では体積膨張による歪みが計測されながら、他方ではそのような歪みは無視して酸化膜成長の大変に緻密なモデルが作られているように、細分化した領域の間での交流がない場合が多くある。そのために表面科学の分野で現在必要とされていることはより細分化することで学問の深化を図る一方で、統合的かつ相補的な理解に基づいて学問の体系化を目指すことの重要性、さらには研究の枠組みについてのパラダイムの転換が必要なことを指摘する。


◎ 研究者・技術者であるまえに市民社会の構成員であることの自覚
 サイバーテロやクローン技術の悪用に対して重大な社会的関心が持たれているように、現代の科学技術は社会の進歩だけでなく、重大な犯罪や取返しのつかない社会問題、深刻な環境汚染や破壊につながることもあり、先端科学技術が社会の中でもつ意味と威力を認識することの重要性を指摘する。そのような影響力の大きさの故に、研究者や技術者の良心や社会認識が重要な意味をもつこともあり、市民社会の構成員であることの自覚を求められることが多くあると考えられる。大学では専門知識と技術の伝授が主であり、人間教育は社会に出てから行うとの考え方もあるが、機会ある毎に教える必要があり、専門家として優れているだけでなく、まず人間として、そして社会人としての自覚と責任を果たす必要があると思われる。





グループ活動の方針



 本グループでは「明るく、楽しく、元気よく」をモットーにして運営し、学生の方には自覚と責任感をもって研究を進めてもらうだけでなく、研究だけでなく何事に対しても主体的・能動的に取り組める環境作りに努めます。